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Interview & Talk 施設紹介

日本大学医学部附属板橋病院麻酔科・ペインクリニック科

加藤実

Practice of Pain Management Vol.4 No.2, 42-50, 2013

さまざまな経験を経て痛み診療に
 思い返してみると,私は最初から麻酔科に入局を決めていたわけではなく,学生の頃は脳神経外科に興味がありました.しかし,医学部卒業後にいきなり脳神経外科という特殊な領域に入るまえに,もういちど全身を勉強してから専門領域を決めたいと考えて,麻酔科に入局することにしたのがこの世界に入るきっかけでした.
 日本大学医学部附属駿河台病院の麻酔科で2年間周術期患者管理を学び,ある程度手応えを感じてきたころ,東京都健康長寿医療総合センターで高齢者麻酔を勉強する若手研究者の募集が舞い込んできて,教授の勧めもあり異動することになりました.東京都健康長寿医療総合センターでは週4日臨床麻酔,週1日は動物実験という生活を1年間送りました.その頃は自律神経の電気生理の研究に取り組み,全身麻酔をかけながら鎮痛薬を評価する実験系の確立という研究テーマを与えられて,実験データと格闘する日々でした.

 その後は,関連病院で臨床を経験しながら,駿河台病院が力を入れていたペインクリニックにも携わるようになりました.1996年にトロント大学への留学も経験させていただきましたが,そのときのメインテーマは術後の痛みを和らげる方法の研究のプロトコール作成でした.留学時の指導教官は心理学者かつ統計学者で,麻酔科医ではありませんでしたが,いかにして論文が作られていくかを学び,論文の行間にはさまざまな努力が集約されていることを知りました.当時の私はなんとなく,欧米では研究に対する患者さんの同意は簡単に得られるものだと思いこんでいましたが,実際は同意を得るのはとても大変で,形式的な作業ではなくフレンドリーに話しかけてコミュニケーションをとるなどいろいろな努力をした結果,患者さんの協力を得ているのだということもわかりました.この経験はもちろん帰国後の臨床研究のプロトコール作りに生かされました.
 思いがけない分野できっかけを与えられて,さまざまな人と出会い経験をつんで,現在の痛み診療にたどりついたように思います.それぞれの経験で得たものは,いまでも診療や研究の糧になっています.

インフォームドコンセントの大切さを痛感

 麻酔科医として忘れられない経験があります.麻酔科医になって7年ほどたったころ,私は後輩とともに出向先の関連病院で告知をされていないがん患者さんを診ていました.痛みが非常に強く薬物療法では改善しなかったため,神経破壊薬を注入する特殊な神経ブロックを施行することになりました.その結果,患者さんの痛みは和らぎましたが,数日後から足に力が入らなくなり,やがて下肢が全く動かなくなってしまいました.CTでみると,がんが脊椎まで浸潤して脊損状態になっており,それが偶然にも神経ブロックの時期と重なってしまったようでした.
 ブロック直前にCTなどを施行して入念なチェックをしていたので,足への影響は神経ブロックの施術ミスではないことがわかっていました.ところがご家族からは患者さん本人には絶対に告知しないでほしいといわれています.そのため当然ご本人は神経ブロックのせいで足が動かなくなったと考えていて,顔をあわせるたびに大変な怒りを示されました.インフォームドコンセントの重要性とブロック注射治療の難しさを痛感させられた出来事でした.この経験から,それまで以上に事前の診断をより慎重に行い,CTを含めてありとあらゆる検査を行うこと,また,患者さんにリスクを十分に理解していただくことを肝に命じています.

患者さんの話を根気よく聞くことが大切

 本格的に慢性痛の診療にかかわるようになったのは,ペインクリニックでのがん性疼痛患者さんの毎日の病棟回診がはじまりでした.当時駿河台病院では全国に先駆けてがん患者さんのがんの痛みのコントロールについて,主治医と協力のもと毎日の病棟回診を行うシステムが導入されており,当時,当教室の教授である小川節郎先生から病棟班の班長に任命され,がん患者さんの痛みのコントロールに取り組むことになりました.とはいえ,始めのころは気乗りがしないというのが正直な気持ちでした.患者さんの痛いという声を聞いても何もできず,無力さと虚しさを感じ,病室に行くこと自体がストレスになるほど辛い日々でした.「何もできないのに行って何になるのか」という葛藤を抱えつつ,とにかく患者さんのもとに通い続ける日々でした.
 しかし,しばらく続けるうちに,患者さんから痛み以外の話もしていただけるようになり,私からは治療らしいことは何もできていないのに,患者さんの笑顔がみられるようになったのです.そこでようやく,患者さんの話を聞くことがいかに大事かということを悟りました.医療者は治療が提供できないと罪悪感に苛まれがちですが,当然医学には限界があります.その事実を受け入れられずジレンマを感じていたこと自体,傲った考えだったのかもしれないと反省させられました.

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