オピオイド必要量の個人差  オピオイドによる疼痛治療においては,オピオイドの必要量の個人差が甚だしい.オピオイド必要量の差には,個々人の感じている痛みの種類や強さの差もさることながら,個々人のオピオイド鎮痛効果に対する感受性の差も大きく関与する1).  患者が感じる痛みの強さの差を,急性痛の代表である術後痛を例にとって説明すると,術後痛は,体性浅部痛のかかわる体表面の手術後は軽く,通常非ステロイド性抗炎症薬でよく鎮痛される.しかし,体性深部痛のかかわる骨・関節の手術後の術後痛はかなり強い.さらに,体性痛と内臓痛のかかわる開腹手術後の術後痛は最も強く,通常,十分な鎮痛にはオピオイドの投与を要する.  オピオイド感受性の個人差を,再び術後痛を例に説明すると,同一術式の腹部手術後でも,術後のオピオイドの必要量や,持続硬膜外オピオイドの効果は,個人差が甚だしい.静脈内投与されたオピオイドが鎮痛効果を発揮するには,オピオイドの血中濃度が最低有効鎮痛濃度(minimum effective analgesic concentration;MEAC)を上回る必要があるが,同一手術後でもMEACには,個人間で数倍の差がある1).疼痛感受性やオピオイド感受性の個人差には,年齢,性別,人種,肝・腎機能障害,不安など,各種の要素が影響する1).これら以外に,遺伝的素因がオピオイド感受性に影響を与えることが判明してきた.なかでも,モルヒネやフェンタニルなどのオピオイドの主要な標的分子である,ヒトのμ-オピオイド(MOP)受容体の遺伝子(OPRM1)上のA118G多型が,オピオイド鎮痛効果に与える影響について最も研究が進んでいる.