Summary
痛みという感覚は,組織損傷を避けるための生体警告反応として,なくてはならないものである.しかしながら,急性疼痛が外傷や疾患によりもたらされるのに対し,慢性疼痛は実質的な組織損傷が消失あるいは修復に向かっていても痛覚伝達系が持続的に活性化され,生体にとって痛みを提供するだけの病態像そのものになってしまうことが多い.さらに,痛みが慢性化すると,末梢神経・脊髄だけでなく脳にも可塑的な変化を起こし,抑うつや不安障害,さらには睡眠障害をも引き起こし,QOLを低下させる.こうした状態のきっかけは,損傷などのような後生的な負荷/修飾が起源となることが多いため,翻訳時や翻訳後修飾などに異常をきたすことが主因であると推定される.これまでの疼痛研究の多くは,特定分子を標的としたエンドポイント解析が主流であり,その分子が修飾を受ける経路やその分子の時間的変動の推移について詳細に検討されたり,その推移の理論的なメカニズムが議論されることはほとんどなかった.痛みの慢性化のメカニズムには,脊髄や脳内における可塑的変化(中枢感作)が関与していることが想定されていることから,エピジェネティクス修飾による細胞記憶が慢性疼痛の発現に寄与する可能性はきわめて高いと考えられる.そこで本稿では,最新の研究成果をもとに,転写調節,エピジェネティクス機構,miRNA調節など,多角的な方面からのアプローチを用いた,新しいコンセプトでの痛みの統合的理解の重要性について紹介する.こうした理解は,慢性疼痛の本質を理解するための大きな手がかりをみつけ出すきっかけとなるだけでなく,根本的・早期治療方針を提示していくうえで非常に重要な意味をもつと思われる.
全文記事
Trend & Topics 痛みを科学する―遺伝子―
慢性疼痛のエピジェネティクス―痛みによる細胞記憶
掲載誌
Practice of Pain Management
Vol.3 No.3 18-26,
2012
著者名
成田 年
/
伊達明利
/
池上大悟
記事体裁
特集
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全文記事
疾患領域
神経疾患
診療科目
脳神経外科
/
整形外科
/
リウマチ科
/
神経内科
/
麻酔科
/
心療内科
/
精神科
媒体
Practice of Pain Management
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。