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Trend & Topics 痛みとともに生きる~現場での取り組みと実践

慢性疼痛患者への多面的アプローチ

伊達久

Practice of Pain Management Vol.2 No.4, 24-28, 2011

はじめに
 痛みは人が生きていくうえで必要不可欠な生体危険警告系であるが,痛みが慢性化すると警告の意味はなくなり,それそのものが疾患となる1).それにともない不安や抑うつ,ADL(activities of daily living)の低下を引き起こす2).慢性疼痛患者の治療においては,疼痛を軽減するのを第一目的にするのではなく,QOL(quality of life)の改善を主目標とし,疼痛緩和はそれにともなってもたらされる副次効果と思われる.疼痛緩和の治療だけではなく,ADL向上目的のためのリハビリテーション3)や,精神症状に対する心理的アプローチ4)なども重要となってくる.

慢性疼痛患者の症状は多彩

 慢性疼痛の患者には,疼痛のほかにも,いろいろな症状がみられる5).不安,抑うつなどの陰性症状のほか,怒りやイライラなどの症状もみられる.これらは混在することが多く,状況によって不安が強くなったと思えば,イライラやいろいろの欲求が強いときもある.そのためその状況にあわせてこちらも対処しなければならず,臨機応変の対応が必要となる.
 また,多くの慢性疼痛患者は不眠を訴えることが多い.睡眠薬だけでは十分な睡眠を得ることが少なく,鎮痛剤や抗うつ薬,抗不安薬などを併用することが多い.
 ADLでは社会活動性の低下がみられ,仕事や学業での障害だけでなく,家庭での立場の変化なども疼痛や症状に大きな影響を与える.一家の大黒柱であった男性が,休職し家族の世話にならなければならなくなったときは,疼痛だけではなく,精神的ダメージも大きく,自己価値観の低下をともなうこともある.
 労災や交通事故などの被害6)による慢性疼痛の場合は,加害者に対する怒りなどが強くなり,訴訟に至ることもある.被害者意識が強いと,以前の健康な状態への復帰を強く願い,症状の改善を評価することは少なくなる.また,労災などで仕事をしなくても休業補償が長期間支払われる場合などの疾病利得がある場合は,症状が遷延化することが多い.疼痛などの症状だけではなく,疾病の背景まで考慮した対応が求められる.

慢性疼痛患者は依存的になりやすい

 慢性疼痛患者は医療者に過度な期待を抱くことがある.新しい治療手技や薬物などに過大な期待があるがゆえ,依存に陥りやすい.常にある程度の距離を保ちながら診療をしていかないと,医療者自身も取り込まれて泥沼に陥ることになりかねない.薬物療法においても依存が形成されやすく,投与量が増加しやすい.オピオイドなどの使用については十分な患者選択が重要である7).

慢性疼痛患者の治療目標は鎮痛ではなくQOLの向上

 慢性疼痛患者の治療の目的は,QOLの向上であり,単に疼痛緩和だけが目的ではない.QOLが改善されれば,それにともない徐々に疼痛緩和も得られる.当初の患者の要求は痛みを0(ゼロ)にすることであるが,治療の目的を鎮痛ではなく,QOLの向上であることをはっきりと認識させる必要がある.痛みにとらわれることなく,痛みとうまくつきあっていくことを指導する.そして,少しでもできることを増やすことで結果的に疼痛緩和が得られることを話す.患者は,はじめはなかなか理解しないが,何度も指導することにより徐々にわかってくるようになる.
 慢性疼痛患者の症状は多彩であり,鎮痛よりもQOL改善を目的とするため,薬物療法のほかにも神経ブロック療法(低侵襲手術を含む)やリハビリテーションや心理的アプローチ(心理療法)など多面的に治療を進めていく必要がある.

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