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座談会(Round Table Discussion)

運動器の痛みにおける筋の問題

沖田実矢吹省司牛田享宏

Practice of Pain Management Vol.2 No.4, 4-13, 2011

はじめに
牛田 本日は,矢吹省司先生と沖田実先生におこしいただき,「運動器の痛みにおける筋の問題」をテーマに議論していきます.矢吹先生は,整形外科をご専門としながら福島県立医科大学附属病院のリハビリテーションセンター長を務められています.沖田先生は,長崎大学大学院リハビリテーション科学講座で理学療法をご専門としながら,動物実験など基礎研究にも取り組まれています.
 運動器の痛みにおける筋の問題についてですが,たとえば,痛みの原因が椎間関節痛や椎間板ヘルニアであっても,さまざまな箇所の筋の痛みで困っているのではないかと考えられます.だれしもが悩む肩凝りも,同様に筋の痛みといえるのではないでしょうか.
 運動器の痛みは,筋,骨,軟骨組織,靱帯さらには神経が複雑に絡み合っています.筋の役割は筋単体で考えるのではなく,関節およびその周囲組織全体を,さらに神経も含めた「運動器」をユニットとして診ていく必要があるでしょう.そこで,本日の座談会では,運動器痛における筋のかかわりを,いくつかのポイントから多面的に考えていきたいと思います.

出席者(写真右から順)
愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授/センター長
牛田 享宏 Ushida Takahiro(司会)

福島県立医科大学医学部整形外科教授/
福島県立医科大学附属病院リハビリテーションセンター部長
矢吹 省司 Yabuki Shoji

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
運動障害リハビリテーション学分野教授
沖田 実 Okita Minoru

運動器痛と筋の痛みの病態

1.筋の痛みと拘縮

牛田 まず,矢吹先生は筋の痛みの病態についてはどのようにお考えですか.
矢吹 国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain;IASP)が発表しているファクトシートの運動器痛の項には,「運動器痛の病態生理は完全には解明されていないが,炎症,線維化,組織の変性,神経伝達物質,そして神経感覚障害が関与している」と記載されています.現時点では,これが病態理解のコンセンサスだと思います.
牛田 筋の痛みの具体的な病態としては,線維化や炎症が起こっているということですね.沖田先生,理学療法士として診療にあたりながら基礎研究を続けられているなかで,筋の痛みについてはどのように考えていますか.
沖田 運動器痛において筋の痛みは1つの重要なターゲットと私も考えています.私自身は拘縮の病態メカニズムについて10年来研究を続けていますが,最近わかってきたのは,1カ月程度の不動が原因で起こる拘縮は筋の変化に由来するところが大きいということです.簡単にいうと,拘縮が起こると,筋が解剖学的に短くなり,伸びにくくなる,いわゆる伸張性の低下が起こります.この原因は,以前は筋線維の問題ではないかといわれていましたが,近年の研究により,むしろ筋膜の問題が中心ではないかとされています.そこには線維化が大きくかかわっており,1週間程度の不動で,コラーゲンの増生にともない筋膜が肥厚する現象があり,さらに分子レベルでみると,特に硬い組織に多いタイプIコラーゲンが増加することがわかってきています.また,1カ月ほど不動状態にするとコラーゲン分子間に架橋ができ,コラーゲンそのものの動きが悪くなり,筋膜が伸張されない状態となります.そして,これらの変化が筋の拘縮の病態ではないかとされています.
牛田 運動器痛の治療において,拘縮は重要なポイントということですね.
矢吹 私が学生に指導する際は,患者さんが1週間安静にしただけで,筋力は10~15%落ちてしまい,3~5週間だと半分ほどになってしまうと話しています.また,筋と関連して,関節を固定してしまうと,顕微鏡レベルでは3日ですでに拘縮の兆候がみられ,1週間で臨床的にも拘縮が起きるといわれています.もちろん,軟骨の栄養障害もきたします.
牛田 1週間程度の固定で,筋だけでなく,骨,軟骨組織,靱帯といった関節全体で変化が起こってしまうということですね.

2.拘縮と運動器痛における不動化の問題

牛田 拘縮は,運動器痛の治療において大きな課題になる,“痛みがあるために動かさない,動かさないと痛みが強くなる”という悪循環にかかわってきます.これは近年,動物実験によって,神経生理学的にも組織学的にも証明されてきています.たとえば,旭川医科大学の熱田祐司先生のグループは,関節から出る神経の発火パターンをみると,固定していただけでも,関節炎の状態と同じようなパターンが出ていると報告しています.
沖田 不動によって末梢組織に刺激が入らないことで,神経が可塑的に変化し,これが痛みの発生に関与していると思います.
 筋自体でみると,拘縮があるとやはり筋膜が伸びないため,筋をその長軸方向に伸ばそうとすると,いわゆるストレッチペインが起こります.これには,Aδ線維の関与があるのではないかと考えています.また,拘縮した筋を圧迫すると激痛を訴える患者さんもいらっしゃいます.このように,筋への機械的刺激によって実際に痛覚過敏が起こる事実は,理学療法士をはじめとした多くの医療者は経験的に知っていることではありますが,この知見に関するデータはほとんどありません.
牛田 その点は,今後,臨床例を蓄積し検討していくことによる証明が必要でしょう.たとえば,肩の拘縮の患者さんで「肩は動かないが,痛くはない」という方がいらっしゃいますし,その逆の場合もあります.このような症状発現には神経の関与も少なからずあり,神経原性炎症の存在も考えられます.しかし,対象がヒトなので実験的データが集めにくく,なかなか臨床的な証明が難しい課題ではあります.
矢吹 筋が短い状態で伸ばすときにストレッチペインが出る場合,それは運動時痛です.しかし,なかには安静時痛を訴える,拘縮だけでは説明がつかない患者さんもいらっしゃいます.筋の痛みの機序には,まだまだわからない点が多くあります.

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