前号まで  連載2 1)では,mesolimbic dopamine systemとopioid systemによる痛みの制御,中枢性鎮痛機構について詳述した.連載3 2)では,その機能が破綻した場合について,線維筋痛症を例に挙げ,dopamine & opioid systemの機能不全による痛覚過敏を解説した.線維筋痛症では痛覚過敏だけでなく,dopamine性投射の不足から,吻側前帯状皮質や海馬傍回などにsynapse消失や灰白質密度の減少が起きている.これらの神経核は本来,ストレス反応に関係する視床下部や,不安・恐怖を仲介する扁桃体に結びつき,不快情動の処理や認知機能など身体/精神活動に重要な役割を有する部位である.そのためdopamine systemの機能低下は,“線維筋痛症もや”と呼ばれる多彩な症状(うつ状態,睡眠障害,意欲の低下,慢性的疲労感など)を惹き起こすと考えられる.末梢組織に痛みの源が特定できない慢性腰背部痛の場合にも,程度の差こそあれ,線維筋痛症と共通の機序が示唆されており,神経核間を結ぶdopamine性投射の不足や,opioid systemの機能低下などに研究の焦点が当てられている.