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Trend & Topics 痛みをとらえる

患者さんを対象とした痛みの評価:最近の話題

牛田享宏新井健一西原真理池本竜則谷口慎一郎上野雄文

Practice of Pain Management Vol.2 No.1, 30-37, 2011

はじめに
 多くの診療科を訪れる患者が“痛みで困っている”,“痛みをとって欲しい”ということを訴え,来院する.これに対してわれわれは痛みの部位にかかわる問診,診察(理学所見)を行い,画像検査などを行っていくこととなる.

はじめに(続き)

近年の画像検査の発展は著しく,医療者も患者も画像異常を重視し,治療方針決定の鍵としていることが多い.画像所見に明らかな異常があってそれが理学所見と一致するような場合はよいのだが,この文章を読んでいる多くの医療者がすでに平素から経験しているように,画像所見で大きな異常があっても痛みがない人もいれば,画像所見で異常がみつけられないにもかかわらず強烈な痛みを訴える方もいる.特に後者の場合,われわれは自分に対しても患者に対しても,どのように説明してよいかわからないため困り,この人ははたして本当にどれくらい痛いのか? と疑念を抱くことになる.このような“痛み”について,国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain;IASP)は1985年に“痛みとは組織の実質的あるいは,潜在的な障害に結びつくか,このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚,情動体験である”と定義している.このことは実質的な怪我や病気の有無にかかわらず,患者が本当に“痛い”という感覚を経験すれば“痛み”であるということ,いいかえれば,“痛み”は主観的なものであるということを明確に示しているものである.しかしながら,よりよい治療を考えていくうえで,多くの医師や研究者がこれまでなんとか客観的に痛みを捉えるツールはできないものかと,痛みの評価法の開発に取り組んできているのが現状である.

さまざまな痛み評価法

 これまで取り組まれ開発され,用いられている評価法には,
 ①Visual Analogue Scale(VAS)やNumerical Rating Scale(NRS)のようなタイプ
 ②質問票を使ったもの
 ③器具などを使った評価法(動物実験でも用いられる)
 ④新しい医療検査技術を用いた方法
などがある.
 ①のVASに代表されるものは主観的な感覚をそのまま数値化して捉えようとするものであり,薬の治験の評価法をはじめとして最も広く用いられている.本人の主観に忠実である反面,再現性の面などで問題点もある.
 ②の質問票を使ったものは多くの種類が開発されており,これらは痛みそのものを評価する目的でのMPQ(McGill Pain Questionnaire)1)などや活動面を含めた全般を評価する目的でのShort Form-36やPDAS(Pain Disability Assessment Scale)(参考資料1)などに加えて,腰痛などの特定の部位の痛みをターゲットとしたRDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire)2),ODI(Oswestry Disability Index)3),国内で開発されたものとしてはJOABPEQ(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire),BS-POP(Brief Scale for Psychiatric Problem in Orthopaedic Patients:整形外科患者における精神医学的問題に対する簡易質問票)4)などがある.そのほか,痛みにも関与する精神的なファクターを主に評価するHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)(参考資料2)5)やPain Catastrophizing Scale6)までさまざまな種類が用いられている.
 ③には,理学所見を取るために古くから使われているSemes-Weinsteinフィラメント(von Freyフィラメント)を用いた触覚・痛覚の閾値検査や,ピンホイールなどを用いた痛覚検査に加えて,近年では,痛覚や触覚を比較的特異的に刺激する周波数の電流を用いて,神経選択的知覚神経伝導閾値を測定するニューロメーターや温度刺激装置など,あわせて用いることで総合的に感覚の状態を評価しようとするQST(Quantitative Sensory Testing)7)などの手法がある.ニューロメーターでは2000Hzを大径有髄線維(Aβ線維:振動覚,圧覚),250Hzを小径有髄線維(Aβ線維:触覚),5Hzを無髄線維(C線維:痛覚,温冷覚,自律神経)と使いわけることで,電流知覚閾値を測定し,痛みを含めた感覚神経系の病態を分析しようとするものである8).また,電気刺激により出現する異種感覚を患者が有する痛みと比較することで,主観的な痛みを数値化しようとする試みとしてPain Visionという方法が国内で開発されてきている.
 ④の新しい医療技術を用いて痛みを評価しようとする試みのトピックとしては,核種やMRIを用いたニューロイメージング技術,Magnetoencephalography(MEG)などの電磁気学的な方法が挙げられる.

痛みのニューロイメージング

 ヒトを対象としたニューロイメージング法には核種を用いるPET(Positron Emission Tomography),SPECT(Single Photon Emission Tomography)とMRI技術を応用したfunctional MRI(fMRI)がある.
 健常者では,主として脊髄視床路を上行してきた痛覚のシグナルは視床を介して1次・2次体性感覚野(S1,S2),島皮質,前帯状回,前頭前野内側部などのPain Matrixとよばれる痛みに関連する大脳皮質部位に投射されることとなる(図1).

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