Trend & Topics 痛みを知る
痛みのメカニズム
―末梢で感じて脊髄に伝える―
Practice of Pain Management Vol.1 No.1, 26-31, 2010
はじめに
ヒトは生体に損傷を引き起こすような外環境・内環境(病気など)の変化を「痛み」として敏感に察知し,外環境から逃避したり,内環境の異常をみつけて,生体を防御し恒常性を維持してきた.先天性無痛無汗症やNaチャネルのひとつであるNav 1.7の遺伝子異常をもつヒトでは,生まれつき「痛み」を感じないため外的侵害刺激から自身を守ることができないことが知られている1,2).すなわち「痛み」は生存に必須な感覚であり,生体防御のための警告システムである.本稿では末梢神経での痛み刺激の受容とその伝達について概説する.
末梢での痛みの受容と伝達
痛みを惹起する外的侵害刺激は外環境と接する皮膚などに存在する侵害受容神経(nociceptor)によって受容され,その情報は脊髄-脳へと伝達される.痛みを惹起する侵害刺激は温度刺激(熱・冷刺激),機械刺激,化学刺激に大別される.侵害刺激がnociceptorを興奮させるには,その終末で温度刺激(熱・冷刺激),機械刺激,化学刺激が電気的な信号(活動電位)に変換される必要がある.この変換器が痛み受容体である.痛み刺激は末梢神経自由終末に存在する痛み受容体を活性化し,受容器電位を発生させる.そして,受容器電位が十分に脱分極し電位依存性Naチャネルの活性化閾値を超えると全か無かの法則に従う活動電位が発生し,侵害刺激情報は脊髄終末へと伝達され,興奮性神経伝達物質としてグルタミン酸を放出し脊髄神経に情報伝達する(図1).
痛み受容体―痛み刺激を電気信号に―
長いあいだ,痛み受容体が何であるかは不明であったが,分子生物学の進歩によりいくつかの痛み受容体の分子実体が明らかになってきた.
1.TRPV1(transient receptor potential V1)
1997年にトウガラシの主成分であるカプサイシンの受容体が単離され3),vanilloid receptor subtype 1(VR1)と命名された.VR1はTRPスーパーファミリーに属するイオンチャネル内蔵型受容体であり,現在はTRPV1と分類されている.TRPV1は末梢知覚神経の無髄神経線維に特異的に発現する.カプサイシンは辛味成分であるとともに痛みも惹起する.異所性発現型を用いた電気生理学的機能解析により,TRPV1はカプサイシンだけでなく熱や酸によっても活性化することが明らかとなった4).TRPV1は43℃以上の熱刺激で活性化されるが,43℃はヒトや動物に痛みを引き起こす温度閾値とほぼ一致している.また,虚血や炎症で起こりうる酸性化でもTRPV1は活性化される.カプサイシン,熱,酸はいずれも生体で痛みを惹起しうるため,TRPV1は多刺激痛み受容体として機能すると考えられる(図2).
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。