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誌上ディベート

バルプロ酸は妊娠可能な女性に使用可能か

竹島多賀夫兼子直赤松直樹

Headache Clinical & Science Vol.2 No.2, 19-28, 2011

 デパケン®,デパケン®Rが公知申請により2010年10月に片頭痛に対する適応が特別措置として認められ,2011年6月にはデパケン®,デパケン®R,およびセレニカ®Rが,正式に認可された.バルプロ酸は片頭痛の予防薬として良質のエビデンスがあり,欧米では広く使用されていた.わが国の『慢性頭痛の診療ガイドライン』でもバルプロ酸(VPA)は高いエビデンスがあり,グレードAとされていたが,保険適用が認められていなかったため,てんかんや双極性障害などの共存症をもつ患者での使用や,専門医による使用にとどまっていた.
 デパケン®,デパケン®R,およびセレニカ®Rが,片頭痛の予防薬として正式に認可されたことにより,わが国の片頭痛患者にも広く処方されるようになり,多くの福音をもたらすことが期待される.片頭痛予防ではVPAの投与量は400~600mg/日,血中濃度で21~50μg/mLが推奨されており*,てんかん治療の用量よりも低いレンジで使用されることが多いと思われる(*:『バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)』より.『慢性頭痛の診療ガイドライン』では投与量500~600mg/日,血中濃度50μg/mL以下となっている).一方,片頭痛は20~40歳代の女性に多い疾患であり,妊娠可能な患者が多いことから,妊娠に関する配慮は不可欠である.片頭痛で使用する用量であれば,他の抗てんかん薬を併用せず,徐放製剤を用いれば問題はないとする意見と,やはり慎重であるべきであるとの意見がある.
 実際には個々の症例において判断していく必要があるが,VPA使用の可否について,肯定的な立場と慎重な立場から専門家に誌上ディベートのかたちで寄稿をお願いした.膨大なてんかん症例におけるVPA使用の経験とデータの蓄積をお持ちの弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座教授,兼子直先生に肯定的な立場からの論説をお願いし,難治性てんかんの症例やデータを多数お持ちで,また頭痛専門医として頭痛診療にも深い造詣をお持ちの産業医科大学神経内科准教授,赤松直樹先生には慎重な立場からの論説をお願いした.論点が整理され,読者諸兄姉の実地診療でのケース・バイ・ケースの判断の参考になることと思う.

(寿会富永病院 副院長
神経内科部長/ 頭痛センター長 竹島多賀夫 Takao Takeshima)

※本企画はテーマに対して,あえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません.

バルプロ酸は妊娠可能な女性に使用可能である

サマリー

 バルプロ酸(VPA)は片頭痛予防薬としても用いられるようになった.しかし,片頭痛予防を目的とした妊娠可能年齢の女性に対してのVPAの使い方については一定の見解が得られていない.一方,VPAは30年以上にわたり国内外で全般てんかんの第1選択薬として使用されてきた実績があり,単剤で投与量1,000mg/日未満,血中濃度70μg/mL未満であれば催奇形性等のリスクが低いと考えられている.VPAの片頭痛予防療法における推奨投与量は400~600mg/日,至適血中濃度は21~50μg/mLであることを考えると,片頭痛予防療法におけるVPAの催奇形性等のリスクはより低い.VPAに対する国内外のガイドラインでの推奨度を勘案すると,片頭痛をもつ妊娠可能な年齢の女性に対しても予防薬としてVPAを用いることは可能と考える.

はじめに

 VPAは,抗てんかん薬(antiepileptic drug;AED)として登場して以来,情動安定化薬,最近では片頭痛予防薬としても用いられるようになり,致死的副作用はきわめて少ないため,最も汎用されている薬剤の1つである.しかし,近年,子宮内曝露による児の催奇形性とIQへの影響が懸念されているため,妊娠可能年齢にある女性に処方する際には留意しなければならない点がある.本稿では妊娠可能年齢にある女性へのVPA使用の問題を中心に検討する.

エビデンス

 本邦の疫学調査1)によると人口の8.4%が片頭痛に罹患しており,女性の片頭痛有病率は12.9%と男性の3.6%に比べて高く,特に20~40歳代に多いのが特徴である.これらの片頭痛患者の74%が日常生活に大きな支障があると感じている.
1.VPAが使用される疾患における代替薬
 片頭痛の発作時に使用される薬剤にはトリプタン,エルゴタミン,鎮痛薬があるが,特異的に使用されるのは前2者である.これらの薬剤には予防効果はなく,VPAではその予防効果を期待できる.欧米における片頭痛予防薬としての第1選択薬はVPA,β遮断薬,フルナリジン,トピラマート(TPM)であるが2),本邦で保険適用が認められているのは,Ca拮抗薬ロメリジンとVPAのみで,両剤を直接比較したデータはない.しかし,日本頭痛学会編『慢性頭痛の診療ガイドライン』によると,「臨床的な印象」はロメリジンに比してVPAの方が高い効果が得られ,また,「臨床的な印象」に「科学的根拠」等を加味した「推奨グレード」は,ロメリジンは本邦のみの発売であることもあり,B(行うよう勧められる)であるのに対し,VPAはA(行うよう強く勧められる)と高く位置づけられており,海外におけるガイドラインでも第1選択薬として位置づけられている2).妊娠中もしくは妊娠している可能性がある女性に対しては,VPAは原則禁忌であるが,ロメリジンも動物実験の結果から禁忌となっている.
 双極性障害治療の中心は気分安定薬,リチウム(Li),VPA,カルバマゼピン(CBZ),ラモトリギン(LTG)であり,LiとVPAが基本的な薬剤である.これらの薬剤の妊娠中の使用について米国,オーストラリアではLiは禁忌,VPAは原則禁忌,CBZ,LTGは有益性と危険性を考え投与するとなっている3)4).
 表1はてんかんの薬剤選択に関する英国のガイドライン5)を示しているが,多くの発作型でVPAは第1選択薬であり,若年ミオクローヌスてんかんでは最も効果的な薬剤である.

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