デパケン®,デパケン®Rが公知申請により2010年10月に片頭痛に対する適応が特別措置として認められ,2011年6月にはデパケン®,デパケン®R,およびセレニカ®Rが,正式に認可された.バルプロ酸は片頭痛の予防薬として良質のエビデンスがあり,欧米では広く使用されていた.わが国の『慢性頭痛の診療ガイドライン』でもバルプロ酸(VPA)は高いエビデンスがあり,グレードAとされていたが,保険適用が認められていなかったため,てんかんや双極性障害などの共存症をもつ患者での使用や,専門医による使用にとどまっていた.  デパケン®,デパケン®R,およびセレニカ®Rが,片頭痛の予防薬として正式に認可されたことにより,わが国の片頭痛患者にも広く処方されるようになり,多くの福音をもたらすことが期待される.片頭痛予防ではVPAの投与量は400~600mg/日,血中濃度で21~50μg/mLが推奨されており*,てんかん治療の用量よりも低いレンジで使用されることが多いと思われる(*:『バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)』より.『慢性頭痛の診療ガイドライン』では投与量500~600mg/日,血中濃度50μg/mL以下となっている).一方,片頭痛は20~40歳代の女性に多い疾患であり,妊娠可能な患者が多いことから,妊娠に関する配慮は不可欠である.片頭痛で使用する用量であれば,他の抗てんかん薬を併用せず,徐放製剤を用いれば問題はないとする意見と,やはり慎重であるべきであるとの意見がある.  実際には個々の症例において判断していく必要があるが,VPA使用の可否について,肯定的な立場と慎重な立場から専門家に誌上ディベートのかたちで寄稿をお願いした.膨大なてんかん症例におけるVPA使用の経験とデータの蓄積をお持ちの弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座教授,兼子直先生に肯定的な立場からの論説をお願いし,難治性てんかんの症例やデータを多数お持ちで,また頭痛専門医として頭痛診療にも深い造詣をお持ちの産業医科大学神経内科准教授,赤松直樹先生には慎重な立場からの論説をお願いした.論点が整理され,読者諸兄姉の実地診療でのケース・バイ・ケースの判断の参考になることと思う. (寿会富永病院 副院長 神経内科部長/ 頭痛センター長 竹島多賀夫 Takao Takeshima) ※本企画はテーマに対して,あえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません.