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Meeting Report

第70回米国肝臓学会議(AASLD 2019)

川口和紀

The Liver Cancer Journal Vol.12 No.1, 43-45, 2020

はじめに
2019年11月8日~12日にかけ,AASLDがボストンにて開催されました。AASLDは例年この時期ですが,米国東海岸は春秋が短く,夏冬が長いとされ,すでに冬の装いでした。テレビニュースを見ると,カナダ方面は吹雪のある厳しい気候になっているとのことでした。
ボストンの会場はいつものJohn B. Hynes Veterans Memorial Convention Centerでありました(写真1)。前回3年前の当地での開催時と比較すると,今回はParallelやPlenary sessionの一部がSheraton Hotelのballroomで行われ,また企業展示がゆったりとした感じでありました。本年は3,331題の演題応募があり,約70%がアクセプトされたとのことです。

総会の概要

初日はSIG(Special Interest Groups)という,各肝疾患の病態にかかわるテーマの発表があり,すでに多くの参加者がいました。腸肝連関や肝再生もあり,肝オルガノイドなど,各トピックの報告がありました。腸内細菌に関しては,Clinical Research Workshopでもテーマとされていました。
2日目は,Post Graduate CourseやBasic Research Symposiumのsessionがありました。前者は日本では生涯教育講演会に相当するもので,本年はPrecision Medicineがテーマとなっており,肝腫瘍のみならず肝線維化や自己免疫性肝疾患の各疾患についての精密医療を中心とする内容でした。後者は,肝や胆管の発生,再生医療についての内容で,特に肝の前駆細胞やiPS細胞を利用した組織構築に関して日本人研究者による講演が複数ありました。
3日目は,肝腫瘍のバイオマーカーに関するBasic Research Workshopに参加しました。HCCの遺伝子解析のデータがまとまりつつあり,そのphenotypeによってp53やβカテニンなどの変異や発現が異なることがまとめられていました。またliquid biopsyを用いて,将来正確に治療薬を使い分けるためのツールとなることに関する発表もありました。また,President’s Choice Lectureでは,米国でご活躍されている日本人の先生が国際保健の講演をされました。また,午後~夕方は多くのParallel sessionがありました。
4日目はPlenary,Late breaking,Parallel,Poster sessionなど,多岐にわたる発表が一日中ありました。印象的だったのは,DAAの発達によりHCV治療の発表は減りつつある一方,HCCの基礎,臨床の発表がこれまでのAASLDよりも充実していたことです。もちろんNASHのFXR agonistをはじめとした治療,HBVのcapsid阻害剤やsiRNAなど治験データや基礎データに関するsessionも活発な議論がありました。それに関連した発表では,米国ではHCCの症例が徐々に増加してきており,主な成因として肥満やNAFLD,糖尿病が関与しているということです。
さらに目立ったのは,基礎の分野では再生や発生の内容,線維化のメカニズムに関連した内容でした。RNAseqのみならず,single cell解析やiPS,オルガノイドの材料もあり,年々AASLDの内容は変遷しつつあることを実感しました。特に,HCCの研究や臨床も充実しており,分子標的治療薬やPD-1阻害剤を含めた治験成績の詳細な発表もありました。
さらに,日本でまだ認可されていない分子標的治療薬についても発表がありました。HCCのsessionはゲノム解析を重点とする発表があり,Precision Medicineを目指した治療でなければならないメッセージであるのではないかと思いました。HBVの治療はcapsid阻害剤やEntry阻害剤,分泌阻害剤など新規の治療薬の演題が報告されており,よりHBs消失が可能となる治療も出てくるのではないかと思いました。日本では少ない肝腺腫の発表もPlenary sessionでありました。
また,hepato-renal syndromeにおけるTerlipressinの有用性の確認,cholestasisにおけるベザフィブラートの有用性に関するものもPlenary sessionやLate breaking abstract sessionでありました。
夜にもレセプションのみならず,会場の近くのホテルでHCC治療のサテライトシンポジウムがあり,参加しました。分子標的治療薬やICIの治験結果を,ASCO,国際肝癌学会(ILCA)や欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の内容も含め報告していました。特に分子標的治療薬の使い分けを症例呈示しながら,参加者に対しアンサーパッドで問うような形式でありました。

各発表の主な内容

本学会に参加して,他に印象的であった発表を以下に記載します。

Plenary 16:HCCのリスクは生活習慣が関与している

米国でのmass studyでは糖尿病,高血圧,脂質異常の有無がHCCの発症に影響し,喫煙,アルコール,BMIも関与している。その逆の作用として,運動量の増加,食事量の抑制がHCCの発症率を低減する。これらの因子を“healthy factor”として計算され,その数値が高いことによりHCCのリスクは低下し,NAFLDとも関与し,さらに肝疾患関連死の低下も認められる。抗ウイルス治療によりアジアをはじめとしてHCCが抑制傾向であるが,この先の数十年も米国ではHCCのリスクは生活習慣が関連して増加することを危惧する報告でもある。

Parallel 173:YAPのHCCにおける作用について

HippoシグナルにおけるYAP(Yes-associated protein)を阻害させることにより,NASH背景のHCCを誘導するストレプトゾシン(STZ)/High Fat Diet(HFD)処理後のマウスにおける肝前駆細胞の活性化を減少させることを示した。VerteporfinはYAPを阻害し,結合組織成長因子(CTGF)および肝前駆細胞を抑制することが明らかとなった。

Parallel 200:CheckMate040について

PD-1阻害剤であるニボルマブ(NIVO)および,CTLA-4阻害剤であるイピリムマブ(IPI)との併用療法CheckMate040試験で,3つのアームを設定した。つまり,Arm A[NIVO 1mg/kg+IPI 3mg/kg Q3W(4 doses)],Arm B[NIVO 3mg/kg+IPI 1mg/kg Q3W(4 doses)],Arm A,Bはその後,NIVO 240mg Q2W flat dose,Arm C(NIVO 3mg/kg Q2W+IPI 1mg/kg Q6W)に割り当てた。結果,Arm AがOSに関して22.8ヵ月と有意に延長し,CRは8%と他のArmに比較して高値で,かつ安全性も同等であった。AASLDでは,特にetiology別,AFP値別のOSや奏効率,また治療関連有害事象や肝臓関連有害事象のデータが示されていた。

また,当研究室からは以下の口演があり,紹介させていただきます(写真2)。

Parallel 118:Selenoprotein PのmRNAはHCV感染においてRIG-I介在性の自然免疫を制御する

肝臓で産生される分泌タンパク質であるSelenoprotein P(SeP)とHCV感染との関連について評価した。SePは2型糖尿病において産生が亢進し,肝細胞や筋肉細胞における糖代謝に影響を与えている。今回,in vivoin vitroおよび臨床検体での評価により,HCV感染によって発現誘導されたSePのmRNAが,抗ウイルス免疫分子であるRIG-Iタンパクに結合し,活性化に必要な構造変化を妨げることにより,抗ウイルス作用を有する1型IFNの誘導を抑制していることを証明した。

演題発表風景

まとめ

AASLDは基礎から臨床まで多岐にわたり非常に勉強になる学会であり,かつ米国の肝臓病学の趨勢を知ることもでき,日本からも多数の肝臓研究者が参加され,当科からも計18題の演題を報告いたしました(写真3)。2020年は11月中旬に同じくボストンで開催されるとのことであります。最後に,このような報告の機会をいただき,誠に有難うございました。

金沢大学消化器内科 金子周一教授グループの集合写真

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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