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Special Articles

肉眼的脈管侵襲陽性肝癌に対する集学的治療

肉眼的脈管侵襲陽性肝癌に対する肝切除を中心とした集学的治療

國土貴嗣長谷川潔

The Liver Cancer Journal Vol.12 No.1, 24-27, 2020

Summary
肉眼的脈管侵襲陽性肝癌は,欧米のガイドラインでは分子標的治療薬のみが推奨されており,国内のガイドラインでは肝動脈化学塞栓術,肝切除,動注化学療法,分子標的治療薬が治療法の選択肢として推奨されている。血管内腫瘍栓合併肝細胞癌に対する外科的切除は,その他の治療と比較して有意にその予後を延長させる可能性が,大規模データベースである日本肝癌研究会の追跡調査結果を用いた解析から示唆された。肝機能が良好であり,腫瘍栓の進展範囲がVp3あるいはVv2までに留まるものが外科的切除のよい適応であると考えられた。一方,Vp4やVv3の症例に対しては,近年肝細胞癌への抗腫瘍効果が注目されてきているレンバチニブや免疫チェックポイント阻害薬などと組み合わせることで,その予後が改善することが期待され,今後の報告が待たれる。
「KEY WORDS」肉眼的脈管侵襲陽性肝癌,ガイドライン,外科的切除,日本肝癌研究会追跡調査

はじめに

肉眼的脈管侵襲陽性肝癌は欧米で多用されているAmerican Association for the Study of the Liver Diseases/Barcelona Clinic Liver Cancer (AASLD/BCLC)ガイドライン1)ではAdvanced stageに分類され,治療としては分子標的治療薬のみが推奨されている。一方,わが国の最新のガイドライン2)では,肝動脈化学塞栓術(TACE),肝切除,動注化学療法,分子標的治療薬が治療法の選択肢として推奨されている。
本稿では,肉眼的脈管侵襲を伴った進行肝癌に対する外科的治療の成績について,特に肝切除が治療法の選択肢として国内の2017年版ガイドライン3)から明記される根拠の一つとなった,最新の日本肝癌研究会追跡調査の結果を含めて概説したい。

脈管侵襲の分類

脈管侵襲は門脈腫瘍栓と肝静脈腫瘍栓の2つに大別される。『原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版』4)によれば,門脈腫瘍栓,肝静脈腫瘍栓は表1に示したように,それぞれVp1-4,Vv1-3に分類される。具体的には,門脈腫瘍栓は門脈二次分枝より末梢(二次分枝を含まない)までのもの(Vp1),門脈二次分枝までのもの(Vp2),門脈一次分枝までのもの(Vp3),門脈本幹に達するもの(Vp4)に分類される。一方,肝静脈腫瘍栓は肝静脈末梢枝に留まるもの(Vv1),主要肝静脈の本幹に達するもの(Vv2),下大静脈に達するもの(Vv3)に分類される。この分類における主要肝静脈とは,右・中・左肝静脈本幹,下右肝静脈および短肝静脈などの下大静脈からの一次分枝が該当する。
本稿では,各種画像診断にて術前にVp1以上あるいはVv1以上と診断された症例を,肉眼的脈管侵襲陽性肝癌と定義する。

門脈腫瘍栓,肝静脈腫瘍栓の分類

門脈腫瘍栓合併症例に対する外科的切除

門脈腫瘍栓合併肝癌に対する外科的切除の有用性に関する報告は,国内を中心として繰り返し報告されてきた5)。しかしながら,単施設では症例数が少なく,これまでガイドラインとして推奨できるレベルのエビデンスを構築することは困難であった。
そこで筆者らは,日本肝癌研究会の追跡調査の結果を用いて解析を行った6)。2000年から2007年までの追跡調査に登録された77,268人の肝癌患者のうち,術前画像診断にて遠隔転移がなく,門脈腫瘍栓を認めた(Vp1-4)肝機能が良好な(Child-Pugh 分類A)4,389例を対象として解析を行った。外科的切除群とその他の治療群を比較して検討を行った。なお,その他の治療としてはTACE,動注化学療法を行った症例は含まれているが,本研究の登録期間はソラフェニブの市販前であり,分子標的治療薬は含まれていない。
外科的切除を行った1,877例の生存期間中央値(MST)は2.87年であり,その他の治療を行った2,512例のMST 1.10年と比較して有意に長かった(図1)。加えて,肝機能や腫瘍条件を揃えた傾向スコアマッチング後の1,058例ずつの解析においても,外科的切除はMST 2.45年と,その他の治療を行った症例のMST 1.57年と比較して有意に長かった(図2)。傾向スコアマッチング後の層別解析では年齢,肝炎ウイルスの有無,腫瘍マーカーの値,腫瘍数にかかわらず切除群の予後が良好であったが,Vp4の症例でのみ切除群とその他の治療群で統計的な有意差を認めなかった6)

日本肝癌研究会追跡調査結果における肉眼的門脈腫瘍栓合併肝癌の治療別の成績

肝静脈腫瘍栓合併症例に対する外科的切除

肝静脈腫瘍栓合併肝癌に対する外科的切除の有用性に関する報告は,その疾患頻度が門脈腫瘍栓と比較してまれであるため,さらに少ない7)。肝静脈腫瘍栓に関しても,筆者らは前述の日本肝癌研究会の追跡調査の結果を用いて同様の解析を行った8)
外科的切除を行ったVv1-2に留まる540例のMSTは4.47年であり,その他の治療を行った481例のMST 1.58年と比較して有意に長かった(図3)。肝機能および腫瘍条件を揃えた傾向スコアマッチング後の223例ずつの解析においても,外科的切除はMST 3.42年と,その他の治療を行った症例のMST 1.81年と比較して有意に長かった(図4)。一方,下大静脈腫瘍栓合併症例(Vv3)では,外科的切除群111例のMSTは1.48年であり,その他の治療を行った134例のMST 0.84年と比較して統計的には有意に長いものの,0.64年と差は小さかった(図5)。

日本肝癌研究会追跡調査結果における肉眼的肝静脈腫瘍栓合併肝癌(Vv1,Vv2)の治療別の成績

おわりに

血管内腫瘍栓合併肝細胞癌に対する外科的切除は,その他の治療と比較して有意にその予後を延長させる可能性が大規模データベースを用いた解析から示唆された。肝機能が良好であり,腫瘍栓の進展範囲がVp3あるいはVv2までに留まるものが外科的切除のよい適応であると考えられた。
一方,肝癌に対する薬物療法の進歩は目覚ましく,特にVp4やVv3の症例に対しては,レンバチニブや免疫チェックポイント阻害薬などと外科的切除を組み合わせることで,その予後が改善することが期待され,今後の報告が待たれる。

References

1) Forner A, Reig M, Bruix J. Hepatocellular carcinoma. Lancet. 2018 ; 391(10127) : 1301-14.
2) Kokudo N, Takemura N, Hasegawa K, et al. Clinical practice guidelines for hepatocellular carcinoma: The Japan Society of Hepatology 2017 (4th JSH-HCC guidelines) 2019 update. Hepatol Res. 2019 ; 49(10) : 1109-13.
3) 日本肝臓学会 編.肝癌診療ガイドライン 2017年版.東京:金原出版;2017.
4) 日本肝癌研究会 編.原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版.東京:金原出版;2019.
5) Sakamoto K, Nagano H. Surgical treatment for advanced hepatocellular carcinoma with portal vein tumor thrombus. Hepatol Res. 2017 ; 47(10) : 957-62.
6) Kokudo T, Hasegawa K, Matsuyama Y, et al. Survival benefit of liver resection for hepatocellular carcinoma associated with portal vein invasion. J Hepatol. 2016 ; 65(5) : 938-43.
7) Kokudo T, Hasegawa K, Yamamoto S, et al. Surgical treatment of hepatocellular carcinoma associated with hepatic vein tumor thrombosis. J Hepatol. 2014 ; 61(3) : 583-8.
8) Kokudo T, Hasegawa K, Matsuyama Y, et al. Liver resection for hepatocellular carcinoma associated with hepatic vein invasion: A Japanese nationwide survey. Hepatology. 2017 ; 66(2) : 510-7.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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