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日本肝癌研究会

第47回日本肝癌研究会

長谷川潔青木琢進藤潤一吉野裕子河口義邦菅原寧彦國土典宏

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.4, 56-60, 2011

はじめに
 第47回日本肝癌研究会は2011年7月28~29日,静岡市の静岡県コンベンションセンター「グランシップ」にて,市田隆文会長(順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科教授)のもと開催された。今回は「肝癌を探ろう」という趣旨で8つのシンポジウム,「技術を磨こう」と6つのビデオフォーラム,「病理学的コンセンサスを確認しよう」と2つのパネルディスカッションが組まれ,これらに会長講演と2つの特別講演,「肝癌診療Legend(輝ける足跡とSerendipity)」と題した特別企画が加わって,いわゆる企画ものが数多く,大変意欲的な内容だったといえるだろう。特に「わが国の肝細胞癌をまとめよう」の趣旨で7つのワークショップが組まれたが,事前にアンケート調査が行われ,そのデータをもとにした議論が企図されたことは特記すべきであろう。

 当日は市田会長の意欲に感化されたのか,多くの肝癌研究者が静岡の地に集まり,どの会場も途中の降雨も吹き飛ばすような熱気あふれる討議が繰り広げられた。このたび研究会レポートの命を受け,大変光栄に感じるとともに,この貴重な会の記録を残す責任も痛感した次第である。以下,肝臓外科医の目から見て興味深い,あるいは意義深いと感じたセッションを独断で選び,その内容をまとめてみた。

第1日目

1.市田隆文教授 会長講演

 教授ご自身の肝臓研究は,電子顕微鏡を用いた肝組織の観察から始まったそうである。肝組織に間隙が多数あって細かい血管が張りめぐらされていることに驚き,腫瘍内の血管新生の理解から,肝細胞癌(HCC)の腫瘍生検および肝動脈化学塞栓療法(TACE)にライフワークとして取り組むようになった。しかし,HCCはいくら治療をしても再発をきたし,TACEの成績は5年生存率で26%にすぎない。これが発癌機構の解明,肝癌早期発見への研究が求められる所以である。教授はHCCの多段階発癌機構に基づき,血管新生関連因子や細胞接着因子に関する研究を行い,また,肝硬変患者にはすでに多数存在するhyperplastic fociの癌への進行抑止に向けたインターフェロン治療にも取り組んだ。そういった基礎的な研究は,当時どのように臨床に還元されるのかはっきりしたものではなかったが,現在分子標的薬が次々と開発されている状況をみると,こういった研究の方向性は誤っていなかったとおっしゃっていた。
 HCCの局所治療の成績は向上しているようにみえるが,無再発生存率曲線は一定の時期を過ぎてもずっと下がり続ける。一方,肝移植の成績をみると,無再発生存率曲線はある時点でプラトーに達し,低下しなくなる。これは,肝移植が再発抑止を含めた理想的な治療であることを示している。現在肝移植は再発コントロールのための治療としての色合いが強いが,今後初期治療として選ばれるようになることが期待される。そのためにも脳死肝移植の拡大が望まれる。現在日本では5.9日に1人の脳死ドナーが得られ,6.4日に1回脳死移植手術が行われているが,隣国韓国では1.6日に1人の脳死ドナーが出ている。この状況を改善してゆくことが治療成績の向上につながる方法ではないだろうかと述べて講演を締めくくられた。

2.特別企画「肝癌診療Legend(輝ける足跡とSerendipity)」

 肝癌領域では以前から現在に至るまで日本は世界をリードしてきたが,その代表選手ともいえる4人の先生方が講演された。
 トップバッターは久留米大学理事長の神代正道先生,early HCCの提唱者である。この概念がはじめて『原発性肝癌取扱い規約』に登場したのが,1983年発刊の第2版だったが,2002年以降の数回にわたるInternational Consensus Group for Hepatocellular Neoplasia(ICGHN)の会議(13ヵ国から30人を超える病理医が参加したという)を経て,2009年「Hepatology」誌のEditorialにおいてDesmet先生がdysplastic noduleとearly HCCの鑑別としてstromal invasionの概念を記すに至って,ようやくearly HCCが広く認知されたのであった。当初から数えると,ほぼ30年であり,大変な時間を要したことがよくわかった。
 次に真島消化器クリニックの真島康雄先生によりMajimaニードルの開発秘話をご紹介いただいた。点滴ビン(今では見かけることもなくなったが)を用いた吸引装置の製作など,日頃の創意工夫あっての画期的装置の開発だったと理解した。
 3番目の大阪市立大学名誉教授の山田龍作先生は肝動脈塞栓療法(TAE)についてお話されたが,そのなかで興味深かったのが,この治療法は門脈本幹閉塞例には危険であること,腫瘍の中心は壊死していても辺縁部にviable cellが残存しうることなど,重要な知見が初期の15例の経験で見出されていたという点であった。筆者自身,臨床は観察力だ,と教えを受けたものだが,改めてその重要性を感じさせられた。
 最後に千葉医療センターの杉浦信之先生からは,エタノール注入療法についてご紹介いただいた。現在幅広く行われているラジオ波焼灼療法(RFA)に通じる画期的なアイデアである。ただ開発当初は苦労されたらしく,動物実験をもとにした初期の報告は日本肝臓学会で不採択だったとのことである。その後,速報を「肝臓」誌に投稿したところ採択され,それが2009年の創刊50周年誌において一里塚論文としての表彰につながったということで,「Rejectされたのがよかった」と冗談まじりにおっしゃっていたのが印象的であった。
 全体を通じて大変熱気あるご講演が続き興味深かった。今は常識と受けとめられていることも諸先輩方が苦労して積み上げてきた成果なのだと改めて認識した。

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