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HCC Best Practice

慶應義塾大学医学部病理学教室における肝細胞癌治療の取り組み 最善の治療につながる的確な診断を支援する病理画像認識システムの開発

坂元亨宇

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.4, 49-55, 2011

 慶應義塾大学医学部病理学教室における肝細胞癌診療の取り組みについて,同科教授の坂元亨宇先生にお話を伺った。これまで,病理医が早期癌を含めた境界病変などを正確に診断するためには,豊富な経験に基づく専門性の高さが要求された。しかし昨今では,普遍的で再現性の高い病理診断法の確立にも力が注がれるようになっている。坂元先生らは,特異的な分子マーカーと組織標本を組み合わせたり,デジタル病理画像情報を用いたりして,目の前の組織の病理特性を定量化することにより,「経験の有無に関係なく,誰がみても,みえる」病理診断法の開発に取り組んでいる。最新のトピックスを紹介するとともに,「治療に役立つ病理診断とはどういったものなのか?」坂元先生よりのメッセージをお届けする。

慶應義塾大学医学部病理学教室の概要

 慶應義塾大学医学部病理学教室の歴史において特筆すべきは,前教授の影山圭三先生によって日本ではじめて臨床病理カンファレンス(clinico-pathological conference;CPC)が導入されたことと,1996年に病理診断部が中央臨床検査部より独立して設置された当初より同部を含めた教室運営がなされていることである。

1.教室の伝統としてのCPC

 影山先生はロックフェラー財団フェローとして米国インディアナ大学に留学したのち,医学教育の刷新に力を注いだ。その一環として導入されたCPCは同教室の伝統として受け継がれ,学部教育と卒後教育に貢献してきた。たとえば,初期研修医を対象にしたCPCは1週間に1回程度の頻度で開催されており,1症例ごとに2~4名の初期研修医が担当し,臨床および病理の担当者と十分なディスカッションを行ったうえでCPCレポートが作成されている。
 同教室教授の坂元亨宇先生は,特に病理解剖を行った症例を対象としたCPCについて,「医療の質を担保すると同時に,医師として広い見地から患者さんとその病気を理解する力を養えるものとして非常に意義がある」と強調する。病理解剖所見では直接的に治療の効果や作用機序,副作用などをみることができる。それを患者の臨床経過,身体所見,各種の検査所見,画像診断などと照らし合わせることで,はじめて間接的にみえていたものと直接みえるものとの相違や一致が認識できる。そういった体験が糸口となり,医療や医師の質を高めていくというわけだ。
 なかでも,坂元先生が担当している肝・胆・膵疾患における病理解剖のCPCは重要性が高い。「Tokyo HCC Expert Meeting」で報告した1例を含めて,これまでに分子標的薬ソラフェニブ治療中に死亡した症例の病理解剖を4件(うち2件が同教室より)経験しており,そのうち1例では臨床所見や画像所見などからは予測できなかった,ソラフェニブが原因と推測される肝静脈の閉塞が確認されている。このように病理診断は,進行肝細胞癌に対するソラフェニブなど新しい治療法について多くの知見をもたらすことから,必要不可欠といえる。しかし,「胃癌や乳癌では,通常,治療前後に生検が行われている。肝臓は生検の難しい臓器であるうえ,近年は手術よりラジオ波焼灼療法(RFA)が適応されることが多いこともあって,肝癌患者の場合は,通常の外科病理診断の機会が減ってきている」と坂元先生は指摘し,肝癌病理解剖のCPCの重要性を強調した。
 なお,同教室における病理解剖例のCPCは,2011年11月までに1,240回を数え(年間約20回),その数は国内トップクラスだ。坂元先生は,「病理解剖を可能にするためには,治療にあたる臨床医と患者・家族の良好な関係と,臨床医とわれわれ病理医の連携体制が構築されていなければならず,その点においてもこの数字は誇れるものだ」と付け加えた。

2.実験病理学と診断病理学の融合

 病理学は実験病理学(分子病理学)と診断病理学の2分野に大別されており,一般に,それぞれが独立した講座(教室)で運営されることが多い。そのため,実験病理学と診断病理学の乖離がしばしば問題とされ,昨今,一部の施設では両者を統合・再編する動きがみられる。同教室では冒頭で述べたとおり,最初から両者の一体運営がなされている。これは,初代医学部長の北里柴三郎先生が開校式で述べた「我が新しき医科大学は多年医界の宿弊たる各科の分立を防ぎ,基礎医学と臨床医学の懸隔を努めて接近せしめ,融合して一家族の如く」という「建学の理念」に基づくものだという。
 具体的には,大学が果たすべき役割である「教育」「研究」「臨床」に関して,医学部病理学教室は主に「教育」と「研究」の場として,同大学病院内の病理診断部は各診療科から提出される手術検体を形態学的に観察し,最終診断を行う「臨床」の場として機能している。教育は教室員全員が分担してあたり,研究は2名の教授,坂元先生と岡田保典先生をトップとした研究グループに所属する教室員が担い,臨床は病理診断部部長の向井万起男先生と5~6名の専属スタッフを中心として医学部病理学教室に所属するスタッフが月3回のジェネラルな病理診断にあたるほか,自らのサブスペシャリティを活かした病理診断を実践するかたちで進められている。

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