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目で見る肝癌

Budd-Chiari症候群に伴う血流修飾のため診断に難渋した肝細胞癌の1例

小林聡松井修蒲田敏文

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.4, 7-12, 2011

キーワード
①動注CT
 肝結節性病変の血行動態を最も鋭敏かつ客観的に評価可能な検査が動注CTである。動注CTは血管造影時に上腸間膜動脈に挿入したカテーテルから造影剤を注入し,造影剤が腸管を灌流後に門脈を通って肝内に流入してくるタイミングで肝臓のCT撮影を行う経動脈性門脈造影下CT(CT duaring arterial portography;CTAP)と,総肝動脈などに挿入したカテーテルから造影剤を注入しながら肝臓のCT撮影を行う肝動脈造影下CT(CT during hepatic arteriography;CTHA)に大別される。CTAPでは肝内における門脈血流の分布状態が視覚的に評価可能であり,CTHAでは肝内における肝動脈血流の分布状態が視覚的に評価可能である。Single-level dynamic CTHA(SLD-CTHA)とは肝内の腫瘍部分などある1部位にターゲットを絞りテーブル移動を行わずに30秒程度連続的にCTHAを行うもので,病変部への造影剤流入から病変の濃染,造影剤の病変周囲へのドレナージの様子を動的に評価可能な手法である。

②Budd-Chiari症候群
 Budd-Chiari症候群は種々の原因にて肝部下大静脈や肝静脈の狭窄や閉塞が生じることにより肝臓のうっ血が生じる病態である。肝部下大静脈や肝静脈の流出障害により,肝類洞内圧上昇,肝静脈の逆流,肝内・外の側副血行路の発達などがみられ,臨床的には腹水貯留,肝腫大,門脈圧亢進症などを呈する。Budd-Chiari症候群には肝細胞癌が併発しうる。最近の報告ではほかの慢性肝疾患を背景とする肝細胞癌の出現頻度と同様でBudd-Chiari症候群には約4%の頻度で肝細胞癌が出現するとされている1)。また最近の画像診断の進歩に伴い,Budd-Chiari症候群には血行動態異常に伴う多血性過形成結節も出現することが報告されている2)。

③限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)
 真の腫瘍性病変ではなく被膜を有さない肝細胞の限局性の過形成からなる結節性病変で,限局性の異常血流に対する反応性変化と考えられている。病理学的には正常肝細胞から構成され,内部に種々の程度にKupffer細胞を有する。造影CT,MRIの動脈相で早期濃染を呈するが平衡相ではwash outを呈さない点が多血性肝細胞癌との鑑別点の1つである。血管造影では中心瘢痕から周囲に向かって車輻状に広がるspoke wheel appearanceが特徴的な所見である。MRI T1,T2強調像では背景肝と等信号を呈する場合が多い。Kupffer細胞の存在を反映して,SPIO造影T2強調MRIでは種々の程度にSPIO取り込みを認める。FNHは正常肝に生じると定義されているため硬変肝に生じた類似の多血性過形成性病変は,FNH-like nodule(FNH様結節)と呼ばれる。

「KEY WORDS」動注CT,Budd-Chiari症候群,限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)

はじめに

 多血性肝細胞癌を中心とする肝多血性腫瘤性病変の鑑別診断には腫瘤の血行動態,特にそのドレナージ血流の解析が有用と考えられている。具体的にはsingle-level dynamic CT during hepatic arteriography(SLD-CTHA)を用いた肝細胞癌の血行動態解析で多血性肝細胞癌には高率にコロナ様濃染が観察されること3),多血性肝細胞癌と同様に肝臓の多血性腫瘤性病変である限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)ではコロナ様濃染はみられない,あるいはみられてもごく軽度であること4)など多くの知見があり,このようなコロナ様濃染・ドレナージ血流の解析は肝多血性腫瘤性病変の鑑別診断の大きな柱となっている。
 ただし,背景肝に血行動態異常があると腫瘤部の画像所見が背景肝の血流変化に伴う修飾を受け通常のパターンを呈さず診断に難渋する場合がある。本稿では背景肝に存在するBudd-Chiari症候群のために腫瘍周辺の血行動態が変化し,CTHAでコロナ様濃染を呈さなかった多血性肝細胞癌の1例を提示し,背景肝に血行動態異常を伴う際の肝細胞癌の診断の注意点について解説する。

症 例

50歳代,女性

 肝腫瘤を伴うBudd-Chiari症候群に対して精査・加療目的に当院消化器内科紹介受診となる。画像上,肝部下大静脈,右肝静脈の閉塞,肝内静脈-静脈間吻合などを認めBudd-Chiari症候群として矛盾しない像を呈した。
 腫瘤はS6に存在し,サイズは2cm大。腹部超音波で内部に高エコー領域を有する低エコー結節として描出された(図1)。

単純CTでは低吸収,造影早期に濃染を呈するが平衡相ではwash outは不明瞭で周囲肝と等吸収を呈した(図2)。

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