<< 一覧に戻る

日本肝がん分子標的治療研究会

第3回優秀演題論文集 Session4-B MAPKに注目したソラフェニブの治療効果および予後予測因子の同定

櫻井俊治萩原智上嶋一臣工藤正俊

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.2, 66-67, 2011

要 旨
 肝癌は世界で3番目に死亡数の多い癌である。近年,Raf/ERK経路を主な標的とする分子標的薬ソラフェニブが進行肝癌患者の生存期間を有意に延長することが示された。MAPKの一つであるJNKが肝発癌において重要であることが報告されている。そこで,われわれは39名の患者の肝組織をソラフェニブ治療前に採取し,JNK活性を測定した。ソラフェニブ有効群に比べて無効群においてJNK活性は有意に高値を示した。それに加えて,JNK活性はtime to progression(TTP)およびoverall survival(OS)と有意な負の相関を示した。また,JNK阻害薬はヌードマウスの皮下における腫瘍形成を有意に抑制した。JNK活性はソラフェニブ治療効果および予後予測因子として有用である。

背 景

 肝癌は世界で最も頻度の高い癌の一つである。肝切除に加えて肝移植やラジオ波治療の登場により治療の可能性は著しく向上したが,すべての患者が根治治療の対象にはならない。進行癌においては,治療の目的は癌の除去ではなく病状の進行を遅延させ生存期間を延長させることが主眼となることが多い。肝切除の適応がなく,肝動脈塞栓術に難渋する症例において,新しい治療法の開発が待たれる。
 Mitogen-activated protein kinase(MAPK)はセリン・スレオニンリン酸化酵素であり,細胞外からの刺激に反応し,遺伝子発現,細胞分裂,分化,増殖,細胞死および細胞生存などのさまざまな細胞活動において重要な役割を果たしている。MAPKはERK,JNK,p38の3つからなり,MAPKの活性化や不活性化が炎症反応を制御し,形質転換や腫瘍形成時の細胞増殖シグナルに深く関わっていることが報告されている1)-3)。ヒト肝細胞癌でERKの活性化がしばしばみられ,ERKシグナル経路を主な標的とするソラフェニブが進行肝癌患者の生存期間を有意に延長させることが証明された4)。マウスの発癌モデルにおいてJNKはp53,VEGFを制御して肝発癌を促進することが報告されているが,ヒト肝癌におけるJNKの役割は解明されていない。
 本研究でわれわれはJNK活性がソラフェニブに対する不良な治療効果および予後と相関することを示した。JNK阻害薬はヌードマウス皮下における肝細胞癌の細胞増殖と腫瘍形成を抑制した。

方 法

 2009年5月より2010年6月までの間に本院でソラフェニブを投与された患者のうち,治療前に肝生検を施行した39名の患者を対象とした。ソラフェニブの1日投与量は800mgで開始し,副作用があれば減量,休薬にて対処した。効果判定はRECIST 1.1に従って行い,progressive disease(PD)をソラフェニブ無効群,partial response(PR)およびstable disease(SD)を有効群とした。
 JNKの活性はJNKの下流の転写因子であるc-Junのリン酸化を指標とし,免疫染色によるデータを定量化した。
 4週齢のヌードマウスの皮下にHepG2 cellsを移植し,D-JNKi(20mg/kg body weight)またはTAT control peptideを週に1回皮下投与した。

結 果

 年齢,性別,原因,腫瘍の進行度,過去の治療内容においてはソラフェニブ有効群と無効群の間で有意差を認めなかった。JNKの活性は無効群において,有効群に比べて有意に高値であった。
 Kaplan-Meier法を用いたlog-rank testにて,JNK活性の低い群に比べて高い群ではTTPおよびOSは有意に短縮していた。
 肝癌細胞株をヌードマウスの皮下に移植したモデルを用いて,JNK阻害薬であるD-JNKiが肝癌細胞の細胞増殖および腫瘍形成にどのような影響を及ぼすのかを検討した。JNK阻害薬は肝癌細胞の細胞増殖を抑制し,皮下における腫瘍形成を有意に抑制した。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る