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肝細胞癌の難治機序

癌幹細胞における抗癌剤抵抗性のメカニズム

金浩敏原口直紹石井秀始永野浩昭関本貢嗣土岐祐一郎森正樹

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.2, 22-29, 2011

Summary
 癌幹細胞は癌組織の根源とされ,自己複製能,多分化能,腫瘍形成能を有するきわめて特徴的な細胞である。癌幹細胞は抗癌剤や放射線治療に対して耐性を有し,癌の再発の原因となる細胞であると考えられており,そのため,癌幹細胞の治療標的化が癌の根治につながると期待されている。われわれは,肝臓癌において,新規の機能性マーカーCD13を同定し,CD13陽性細胞が癌幹細胞の性質を有する細胞であることを見出し,さらにCD13陽性細胞の生物学的な特徴を検討することで癌幹細胞の治療抵抗性のメカニズムを含めた機能解析を行った。CD13は過酸化物質の排泄を司るグルタチオンパスウェイの酵素としての機能を有しており,細胞内の活性酸素種(ROS)レベルを低く保っている。さらにCD13陽性細胞は細胞周期が静止した状態に主に存在しており,また,多剤耐性を示す分画であるside population(SP)分画と密接に相関し,高い抗癌剤耐性, 放射線耐性能を有している。マウスモデルにおいては,CD13の阻害薬に加えて抗癌剤を投与することにより,非常に高い抗腫瘍効果が認められる。CD13の抑制は癌幹細胞の有する自己複製能を阻害する作用を有し,癌幹細胞標的治療としての有用性が期待される。

Key words
■癌幹細胞 ■肝臓癌 ■治療抵抗性 ■CD13 ■活性酸素種(ROS)

はじめに

 癌幹細胞は癌組織の根源とされ,腫瘍の大部分を占める非癌幹細胞とは異なり,自己複製能,多分化能,腫瘍形成能を有するきわめて特徴的な細胞である。癌幹細胞は抗癌剤や放射線治療に対して耐性を有し,癌の再発の原因となる細胞であると考えられており,そのため,癌幹細胞の治療標的化が癌の根治につながると期待され,厳密な癌幹細胞の同定と機能解析,治療標的化がさまざまな癌腫において研究されている。しかし,少なくとも消化器系腫瘍においては,癌幹細胞の分離・同定はいまだ十分なものではなく,また,それらの報告の多くは免疫不全マウスにおける腫瘍形成能の評価を主としたものであり,機能解析,標的化について報告しているものはほとんどない。われわれは,臨床的に最も大きな障壁となっている癌の治療抵抗性に着目し,細胞機能を重点的に解析することにより肝臓癌幹細胞の新規機能性マーカーであるCD13(アミノペプチダーゼN)の同定に成功した。本研究により得られた肝臓癌幹細胞の治療抵抗性メカニズムは,その他の癌腫の癌幹細胞にも通じる点が多いと考えられる。本稿においては,肝臓癌幹細胞の同定と治療抵抗性メカニズムについて主に述べることとする。

Ⅰ 肝臓癌幹細胞の同定

 われわれは,side population(SP)細胞の遺伝子発現プロファイルと細胞周期解析を組み合わせて,肝臓癌幹細胞の候補となるマーカーを絞り込み,癌幹細胞の新規機能性マーカーとしてCD13を同定した。SP細胞とは,幹細胞分画を多く含み,かつ,ABCトランスポーターを介した多剤耐性を示す細胞分画である1)。また,造血幹細胞および白血病幹細胞は細胞周期が静止した状態(G0期)に存在することが報告されている2)-4)。従来使用されている抗癌剤の多くは細胞分裂を阻害するものであり,こうしたG0期の細胞は分裂が停止しているために抗癌剤耐性5)-7)や放射線耐性8)をもつと考えられている。このように,治療耐性に重点を置いて解析することは,臨床的意義をもつ癌幹細胞の同定につながるだけでなく,効率的な癌幹細胞の分離・同定にもつながるものと考えられる。
 われわれが新しく同定したCD13陽性細胞は,SP細胞分画のG0期に主に存在し,マウス移植モデルにおいてもBrdUを長期保持する細胞であることが示された(図1A~C)。

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