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座談会(Round Table Discussion)

日米における肝癌研究

金子周一坂元亨宇下遠野邦忠児玉龍彦

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.2, 13-20, 2011

近年の癌に関する国際的な統計において(CA Cancer J Clin 61:69-90, 2011),肝癌の発症頻度は日本を含む東アジアが最も高く,欧米では比較的低いが,推定新規患者数は世界的に急増傾向にあることが示された。また,全世界における部位別癌死亡者数は肺癌,大腸癌に次いで肝癌が3番目に多く,発生率低減および生存率向上を目指した理論的かつ実証的研究の推進が急がれる。このような現状下,先ごろ日本癌学会および米国癌学会が合同で開催したカンファレンスにおいて,今後の肝癌対策につながる研究成果などが報告された。そこで,本座談会ではカンファレンスで発表された最新の知見から,肝癌における発癌機構の解明ならびに分子標的治療の開発などに関する重要な話題についてわが国を代表するエキスパートの先生方にご紹介いただき,日米における肝癌研究についてもご討論いただいた。

[出席者,発言順]
金子 周一(司会)
金沢大学大学院医学系研究科
恒常性制御学講座教授

坂元 亨宇
慶應義塾大学医学部病理学教授

下遠野 邦忠
千葉工業大学附属総合研究所教授

児玉 龍彦
東京大学先端科学技術研究センター
システム生物医学教授

はじめに

金子 2011年3月1~3日に東京ベイ舞浜ホテルにて,日本癌学会(JCA)と米国癌学会(AACR)合同のThe 3rd JCA-AACR Special Joint Conferenceが開催されました。本会ではテーマとする癌種が毎回変わり,第1回目は肺癌,第2回目は乳癌,そして第3回目を迎えた今回は肝癌が取り上げられ,日米両国のみならず,中国,台湾および韓国などアジア諸国を中心に100名以上の参加者が集い,基礎研究から治療まで最新の知見に関するセッションが展開されました。そこで,私と一緒に本会の世話人を務めた坂元先生と下遠野先生,そして近年の癌研究において注目を集めているシステム生物医学をご専門とする児玉先生とともにカンファレンスの内容を振り返り,肝癌研究における最近の動向ならびに日米の違いについて考えたいと思います。

肝発癌機構の解明に向けて

1.遺伝子変異からみた発癌機構解析

金子 坂元先生は分子病理学をご専門とする立場から,本会の基調講演で肝細胞癌(HCC)の多段階発癌機構についてお話しされましたが,ご講演にあたり特に意識されたことなどはございますか。

Keynote Lecture
Molecular pathology of Multistage Hepatocarcinogenesis.
Michiie Sakamoto Keio Univ.

坂元 複数の遺伝子異常が蓄積して段階的にHCCが発癌するという多段階発癌説は,わが国の病理医だけではなく,画像診断医や内科・外科医とともに確立した概念であり,分子病理学の前提として人体病理学が基盤となります。今回のカンファレンスはどちらかというと分子病理学的話題が中心であったことから,欧米の先生方に多段階発癌の臨床病理学的意味をどこまで理解してもらえるか事前にいろいろ考えて臨んだのですが,実際に講演してみると比較的受け入れられたという手応えを感じました。おそらく米国肝臓学会による普及活動などの影響もあり,分子病理学的研究を主体とする米国においても,われわれの提唱する多段階発癌説への理解が徐々に深まってきているように思います。
金子 同じく基調講演において,Lowe先生がマウスモデルおよびRNA interference(RNAi)を用いた新しい癌遺伝子同定法についてお話しされていましたが,内容を簡単にご紹介いただけますか。

Keynote Lecture
Integrated Approaches To Cancer Gene Discovery Using Mouse Models And RNAi.
Scott W. Lowe Cold Spring Harbor Lab

坂元 HCCの発癌過程では,癌化を促進するドライバー変異や生物学的活性を示さないパッセンジャー変異など,さまざまな遺伝子異常が蓄積することがわかっています。しかし,これらの遺伝子変異の判別は難しく,癌化に寄与するドライバー変異の同定法は確立されていません。そこで,Lowe先生は効率よくドライバー変異を検出する方法を見出し,癌遺伝子の発見に貢献する可能性を報告されました。まさしく癌遺伝子スクリーニング法の現代版ともいえる機能的なアプローチ法で,ヒト腫瘍由来のプール型complementary DNA(cDNA)またはshort hairpin RNA(shRNA)ライブラリースクリーニングにより,FGF19やサイクリンD1など治療上の標的となり得る10個の癌遺伝子の同定に成功しています。この研究の注目すべき点は,ヒト癌細胞でみられる遺伝子増幅系を用いていることで,診断・治療標的の探索はもちろんですが,最終的にはヒト多段階発癌の理解にもつながる知見が得られるようになったのだと感心いたしました。
金子 確かに,ヒト癌における遺伝子変異の同定が求められる現状において,重要なドライバー変異の検出法を示した貴重な報告に感激しました。

Session 3「Molecular carcinogenesis」
p53, MicroRNAs and Senescence in Human Carcinogenesis.
Curtis C. Harris National Cancer Institute

下遠野 癌抑制遺伝子であるp53の遺伝子変異について長年研究されているHarris先生の発表も,大変印象的でした。今回,染色体末端部分にあるテロメアの短縮によってp53の活性化が起こり,細胞老化に至る過程のなかでの分子機構ならびにテロメア結合蛋白質(TRF2,POT1)の役割について紹介され,p53およびそのアイソフォームが複製老化に関わるmicro RNAとTRF2の発現を特異的に調節すること,POT1アイソフォームがp53の活性化を抑制することなどが示されました。また,p53アイソフォームの発現パターンがスイッチすることで発癌に寄与するとのお話もあり,p53の機能解析に関するup to dateな研究成果に興味を刺激された次第です。
坂元 Harris先生の発表を通じ,p53に対してドミナントネガティブに作用するアイソフォームの存在を知り,p53免疫染色によって蛋白の異常蓄積を検索するだけではなく,機能解析を踏まえて検討しなければならないと改めて感じました。

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