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目で見る肝癌

MDCTとEOB-MRIの所見が乖離した肝細胞癌の1例

泉並木

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.2, 7-11, 2011

キーワード
①Organic anion transporter(OATP)1B3
 肝細胞膜上に存在するtransporterの1つであり,Gd-EOB-DTPA造影剤の細胞内への取り込みに関与している。Organic anion transporterの1つであるが,通常肝細胞癌では発現が低下するため,Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相では腫瘍部が低信号となる。きわめて早期の肝細胞癌から発現が低下するため,肝細胞癌の早期診断に有用である。しかし,一部の肝細胞癌では,OATP1B3(OATP8)の発現が亢進しているため,血流診断では典型的な肝細胞癌であっても,肝細胞相で低信号とならない例が存在することを銘記しておく必要がある。

②Gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriamine pentaacetic acid(Gd-EOB-DTPA)
 Gd-EOB-DTPAは早期肝細胞癌を診断するために開発されたMRI用造影剤である。ガドリニウムを有するため,血流診断を行うことが可能であり,動脈血流の多寡が評価できる。さらに,肝細胞膜上のOATP1B3というtransporterを介して細胞内に取り込まれるため,腫瘍の分化度を評価できる。高分化型肝細胞癌ではOATP1B3の発現が低下しているため,Gd-EOB-DTPA投与10~20分後の肝細胞相のT1強調画像で,腫瘍部が低信号となることより早期診断に有用である。特に,動脈乏血性腫瘍の鑑別においてきわめて有用であり,肝細胞相低信号が早期肝細胞癌を診断するのに最も有用な指標となっている。

③Superparamagnetic iron oxide(SPIO)
 MRI用の造影剤で,主として網内系細胞に貪食される。肝臓においてはKupffer細胞に取り込まれる。鉄を含有しているためKupffer細胞に取り込まれると,MRIのT2強調画像で低信号となる。肝細胞癌は脱分化が進むと,Kupffer細胞数が減少するため,肝癌部にはSPIOが取り込まれず,T2*強調画像で高信号となる。これを利用して肝細胞癌が診断できる。実際には肝細胞癌では,早期の高分化型肝細胞癌ではKupffer細胞数が低下しておらず,中分化に近くなると低下がみられるため,分化度が進んだ肝細胞癌を診断できる。透析患者などガドリニウムを使用できない場合には,その有用性が高い。

「KEY WORDS」Organic anion transporter(OATP)1B3,Gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriamine pentaacetic acid(Gd-EOB-DTPA),Superparamagnetic iron oxide(SPIO)

はじめに

 肝細胞癌の80%以上の症例は,B型やC型肝炎ウイルス感染から発生するため,定期的な腹部超音波や造影CTスキャンが行われる。したがって,肝細胞癌は早期に発見される例が数多くみられる。早期肝細胞癌の診断には,肝細胞に特異的に取り込まれ,肝癌部には取り込まれないgadolinium ethoxybenzyl diethylenetriamine pentaacetic acid(Gd-EOB-DTPA)造影剤が有用であることが証明された1)。特に静注10~20分以降の肝細胞相T1強調画像で低信号となることが,早期肝細胞癌の診断にきわめて有用である。Gd-EOB-DTPAは,肝細胞に受動拡散で入り込むほか,肝細胞膜上のtransporterであるorganic anion transporter(OATP)1B3(またはOATP8)を介して取り込まれる2)。その後胆汁中に排泄されるが,肝細胞癌には取り込まれないため,肝細胞相で低信号となることが肝細胞癌の早期診断に有用となっている。従来は血流診断によって動脈多血性かつwashoutを伴う腫瘍を肝細胞癌と診断していたが,動脈乏血性腫瘍の場合には,Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相のT1強調画像で低信号となった場合に高分化型の早期肝細胞癌が診断できるため,日本肝臓学会の『肝癌診療マニュアル』の乏血性肝細胞癌の診断アルゴリズムに取り入れられた3)。したがって,動脈乏血性の早期肝細胞癌の診断にきわめて有用となっている。さらに,動脈多血性腫瘍に対しても,APシャントの除外や,肝内の他部位の腫瘍の存在検索に有用である。
 しかし,このGd-EOB-DTPA造影剤は肝細胞癌でもOATP1の発現が亢進していたり,胆汁産生を有する結節では,MRI肝細胞相のT1強調画像で高信号となる場合があり注意が喚起されている。本稿では,血流診断では典型的な肝細胞癌の所見であったが,Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相T1強調画像で低信号とならなかった例を提示する。

症 例

60歳代,男性。
現病歴:C型肝炎のため,他院に通院加療していた。定期的検査で撮影した腹部造影CTスキャンにて異常所見がみられたため,当科に紹介され受診した。自覚症状はみられなかった。
身体所見:身長 166cm,体重 64kg,意識清明,血圧 138/78mmHg,結膜貧血なし,球結膜黄疸なし。心音純,呼吸音正常ラ音。腹部平坦,軟,圧痛なし,肝を1横指触知,弾性硬。腹水なし。下腿浮腫なし。神経学的異常所見なし。
検査成績:赤血球数 424万/μL,Hb 13.4g/dL,Ht 41.1%,白血球数 4,400/μL,血小板数 12.4万/μL,総蛋白 7.4g/dL,アルブミン 3.7g/dL,AST 64 IU/L,ALT 55 IU/L,γ-GTP 56 IU/L,ALT 224 IU/L,LDH 267 IU/L,総ビリルビン 0.9mg/dL,BUN 18mg/dL,Cr 1.0mg/dL,プロトロンビン時間 12.3”(対象12.1”),AFP 24ng/L,L3分画 7.8%,PIVKA-Ⅱ 22.6kIU/L,HCV抗体陽性,HBs抗原陰性。
 腹部超音波にて肝S4に低エコー腫瘍を認めた。MDCTを施行したところ,肝S4に動脈相で濃染される経1.5cm大の結節を認め,門脈相でやや染まり,平衡相でwashoutされる所見であった(図1)。

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