<< 一覧に戻る

Topics of HCC

B型肝炎ウイルスによる肝発癌抑止および再発防止に向けた抗ウイルス治療適応の変遷と国際比較

黒崎雅之

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.1, 41-48, 2011

はじめに
 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)の持続感染は,肝硬変,肝細胞癌のリスク因子である。しかしながら,病態が進行するのはHBV感染者のごく一部である。従来はHBe抗原のセロコンバージョンは臨床的な治癒と考えられていたが,いくつかの重要な大規模コホート研究によりB型肝炎の自然史が明らかとなり,抗ウイルス治療対象外と考えられていたHBe抗原陰性でALT値が正常な症例からも発癌がみられることが示された。

はじめに(続き)

一方,B型肝炎に対する治療法の進歩も目覚ましく,唯一の治療法であったインターフェロンに加えて核酸アナログ剤が登場したことにより,治療選択肢が広がった。核酸アナログ剤の最大の問題は長期使用に伴う薬剤耐性であったが,この点も新規核酸アナログ剤によりほぼ克服された。このようなB型肝炎自然史の理解と治療法の進歩により,抗ウイルス治療の対象となる症例の範囲は,日本のガイドラインでも海外のガイドラインでも拡大傾向にある。
 B型肝炎に対する抗ウイルス治療の効果は,短期的にはHBV増殖の抑制と肝炎の沈静化で判定するが,最終的な治療目標は,肝硬変,肝不全への進行阻止と肝細胞癌の抑止である。インターフェロンや核酸アナログ剤などの抗ウイルス治療により達成されるALT値の正常化,HBV DNAの陰性化,およびHBe抗原のセロコンバージョンが,長期的には肝硬変や肝細胞癌の発生抑止に寄与するか否かは重要な問題である。多くのコホート研究データの蓄積により,抗ウイルス治療がこのような長期予後を改善することも明らかにされつつある。

B型肝炎ウイルス持続感染者の発癌リスク

 2002年に報告された11,893人を解析した台湾の大規模コホート研究1)によると,HBs抗原陽性かつHBe抗原陽性者からの発癌は1,169例/10,000人・年,HBs抗原陽性だがHBe抗原陰性の症例からは324例/10,000人・年,HBs抗原陰性者からは39例/10,000人・年であった。年齢,性別,飲酒などの背景因子を揃えた多変量解析では,HBs抗原陽性かつHBe抗原陽性者の発癌リスクはHBs抗原陰性のコントロールと比較し60.2倍で,HBs抗原陽性だがHBe抗原が陰性である症例の発癌リスクはHBs抗原陰性のコントロールの9.6倍であると示された。この結果は,HBs抗原陽性症例の発癌リスクが高いことを示すとともに,発癌リスクはHBe抗原のセロコンバージョンにより減少するものの,健常者と比較すると依然として高いことも示している。
 台湾のREVEAL-HBV Studyグループから2006年に報告された2論文は,B型肝炎の自然史におけるHBV DNA量の重要性を明確に示した。未治療のHBs抗原陽性者3,582例のコホートを前向きに11年間観察して肝硬変への進展リスクを解析した研究では,観察開始時のHBV DNA量と肝硬変進展リスクに有意な関連性があった。すなわち,HBV DNA陰性例(<300copies/mL)から肝硬変への進行は338.8例/10,000人・年に対し,300copies/mL~4 log copies/mLでは429.9例/10,000人・年,4~5 log copies/mLでは774例/10,000人・年,5~6 log copies/mLでは1,878.6例/10,000人・年,6 log copies/mL以上では2,498.3例/10,000人・年であり,HBV DNA量が多いと肝硬変への進行リスクが段階的に高くなった。HBe抗原,ALT,年齢,性別などの背景因子を揃えた多変量解析では,肝硬変への進行のリスク比が,HBV DNA陰性例と比較し,HBV DNAが4~5 log copies/mL,5~6 log copies/mLおよび6 log copies/mL以上でそれぞれ2.5,5.6,6.5倍であった2)。また未治療のHBs抗原陽性者3,653例を11.4年間観察し,肝細胞癌発生のリスクを観察した研究では,HBV DNA陰性例からの発癌は108例/10,000人・年に対し,300copies/mL~4 log copies/mLでは111例/10,000人・年,4~5 log copies/mLでは297例/10,000人・年,5~6 log copies/mLでは962例/10,000人・年,6 log copies/mL以上では1,152例/10,000人・年であり,HBV DNA量が多いと発癌リスクが段階的に高くなることが示された。背景因子を揃えた多変量解析では,HBV DNA陰性例と比較し,HBV DNAが4~5 log copies/mL,5~6 log copies/mLおよび6 log copies/mL以上でそれぞれ発癌リスク比が2.3,6.6,6.1倍であった3)。このように,大規模コホートを対象とした自然経過の観察研究により,高ウイルス量は肝硬変への進行や肝細胞癌発生にかかわる重要な因子であることが明らかにされた。
 さらに,従来はHBe抗原がセロコンバージョンしALT値が正常化した非活動性キャリアは臨床的治癒と認識されていたが,このような症例からも発癌がみられることが示された。この報告も台湾のREVEAL-HBV Studyグループによるものであるが,HBe抗原陰性で,HBV DNAが4 log copies/mL未満,ALT値が正常で肝硬変のない非活動性キャリア1,932例を13.1年間観察したコホート研究で,肝細胞癌の発生リスクはHBs抗原陰性のコントロールと比較すると4.6倍であることが明らかとなった4)。さらに,非活動性キャリアのなかでも,HBV DNAが陽性(>300copies/mL)の症例における発癌リスクはコントロールの5.7倍であった。このようにALT値が正常でもHBV持続感染者には病態進行のリスクがあり,特に高レベルでのHBV DNAの増殖は肝硬変への進行,および肝細胞癌の発生と密接に関連する。

ガイドラインの治療適応基準の変遷,国際比較

 治療適応基準を示したガイドラインとしては,日本では厚生労働省研究班(熊田博光班長)のガイドライン5)が毎年更新されている。海外では2008年のアジア太平洋肝臓学会(APASL)6),2009年の米国肝臓学会(AASLD)7),2009年の欧州肝臓学会(EASL)8)のガイドラインが最新版である。各国の治療ガイドラインは,いずれもHBe抗原,HBV DNA量とALT値をもとに治療適応基準を設定している(表1~3)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る