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肝細胞癌の遺伝的基盤

肝細胞癌の統合的ゲノム解析の現況

永江玄太

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.1, 34-39, 2011

Summary
 ゲノム解析技術の進歩により,肝細胞癌の遺伝子異常の解析が近年大きく展開している。遺伝子発現異常,ゲノム異常,ゲノム構造異常やエピゲノム異常などのゲノムワイドな解析が可能になり,肝細胞癌の発癌と進展に関わる新たな知見が報告されている。さらに,このような遺伝子プロファイルによる分子生物学的層別化によって,肝細胞癌の新たな個別化医療が確立されることが期待される。

Key words
■肝細胞癌 ■遺伝子発現解析 ■ゲノム解析 ■コピー数解析 ■エピゲノム解析 ■マイクロアレイ ■次世代シーケンサー ■個別化医療

はじめに

 肝癌細胞には,数多くの遺伝子異常が蓄積している。これは,肝細胞癌がほかの固形腫瘍同様に,癌化の過程において複数の遺伝子異常を伴いながらさまざまな形質を獲得し,臨床的癌に至っていることを意味している。近年のゲノム解析技術の進歩によって,こうした癌細胞の遺伝子異常をゲノムワイドに解析することが可能になり,発癌と進展に関わる分子生物学的な理解が進んでいる。マイクロアレイの高密度化や次世代シーケンサーの登場は,遺伝子発現パターンの異常のみならず,ゲノム異常(塩基配列の異常)やゲノムの構造異常あるいは転写制御に関わるエピゲノム異常など,あらゆる段階の遺伝子異常に関してゲノム上のほぼすべての領域の解析を可能にした。肝細胞癌発癌過程における新しい遺伝子異常の発見に貢献するとともに,それぞれの基盤情報を統合することで肝癌細胞における遺伝子異常の全容を明らかにする試みが始まっている(図1)。

 一方,臨床現場では,一口に肝細胞癌といっても,発癌母地となっている背景の慢性肝疾患の原因は多岐に及んでおり,癌の個性すなわち癌細胞の生物学的悪性度や治療応答性などは症例により大きく異なることを経験する。このような肝癌臨床組織の不均一性(heterogeneity)に関しても,数100に及ぶ臨床組織のマイクロアレイ解析の結果から分子生物学的に説明する試みが進んでいる。肝細胞癌の多様性を分子生物学的に理解することは,新しい治療標的薬の創出につながるだけでなく,個々の症例に最適な治療を選択していくという,生物学的特性に応じた個別化医療を実現するうえでの大きな一助になることが期待されている1)。本稿では,今後の新たな肝細胞癌治療の展開に向けて有用なシーズを提供していくと考えられる統合的ゲノム解析の現況を紹介する。

 肝細胞癌では,さまざまな段階での遺伝子異常がこれまで報告されてきた2)-4)。DNAの塩基配列が変わるゲノム異常や,染色体の増加・欠失や転座などのゲノム構造の異常,塩基配列には変化はないがDNAやヒストン,クロマチンなどの修飾状態が変わるエピゲノム異常などがその代表例である。ゲノム異常やゲノム構造異常およびエピゲノム異常に起因する転写制御の破綻は遺伝子発現パターンの異常を生じ,癌の細胞特性を形成している。

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