<< 一覧に戻る

座談会(Round Table Discussion)

肝発癌の分子機構

油谷浩幸柴田龍弘加藤直也谷口英樹

The Liver Cancer Journal Vol.3 No.1, 15-25, 2011

わが国の癌死亡者数は年間約34万人と疾患別死亡者数のなかで最も多く,そのうちの約1割が肝臓癌により死亡している(資料:厚生労働省「平成21年人口動態調査」)。このような背景のもと,有効な手立てに乏しい癌種に対する画期的な診断法,治療法および予防法の確立が強く求められる現状にある。近年,発癌の分子機構に関する多くの知見が集積され,癌は癌遺伝子および癌抑制遺伝子の異常により発生・進展するという理解が広く支持されている。これらの分子生物学的研究の成果は,ゲノム診断の実用化,分子標的薬の開発など新たな癌医療の構築に貢献し,臨床現場におけるさらなる発展が期待される。そこで,本座談会では病理および再生研究の立場から癌の分子生物学的研究において第一線でご活躍の先生方にお集まりいただき,「肝発癌の分子機構」をテーマに肝細胞癌の発症に関する最近のトピックについて,基礎と臨床をつなぐ貴重なお話を伺った。

[出席者,発言順]
油谷 浩幸(司会)
東京大学先端科学技術研究センター
ゲノムサイエンス分野教授

柴田 龍弘
国立がん研究センター研究所
ゲノム研究グループがんゲノミクス研究分野分野長

加藤 直也
東京大学医科学研究所
疾患制御ゲノム医学ユニット特任准教授

谷口 英樹
横浜市立大学大学院医学研究科
臓器再生医学教授

はじめに

油谷 2001年にヒトゲノム配列の最初の解読結果が発表されてから10年目を迎える今年は,一つの節目の年でもあります。特に近年は癌ゲノム解析の技術が進歩し,癌化過程において蓄積されるさまざまな遺伝子異常が明らかになってきています。さらに,治療抵抗性あるいは治療感受性の癌ゲノムについての理解が進み,新しい治療法の開発に貢献するなど,癌ゲノム解析はまさに新しい時代を迎えています。しかし,癌の治癒を目指すには,治療抵抗性に関わる癌幹細胞の存在など,癌組織の多様性を解明することが重要であると思われます。
 そこで,本日は「肝発癌の分子機構」をテーマに,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;HCC)の発症に関与するゲノム変異(異常),ウイルス感染および幹細胞について,それぞれご専門の立場からお話を伺うとともに,肝発癌に対する治療戦略を考えていきたいと思います。

ゲノム異常に基づく癌の病態解明に向けて

油谷 最初に,癌ゲノム解析の現状について伺ってまいります。現在,国際がんゲノムコンソーシアム(International Cancer Genome Consortium;ICGC)という大規模なプロジェクトが進められています。柴田先生はわが国の研究リーダーとしてICGCに参加し,ウイルス性肝炎に伴うHCCのゲノム解読を担当していらっしゃいますが,このプロジェクトが目指しているものとは何でしょうか。
柴田 ICGCは,主要な癌の発生・進展に関わるゲノム異常の総体的解明に向けて,世界中の研究者が共有できる有用な研究基盤としての癌ゲノムカタログを作成する国際共同プロジェクトです。癌ゲノム研究の目標としては,このカタログに基づいて癌の原因や分子的特性を見出し,新たな予防・治療・診断法の開発支援につなげることが挙げられます。最終的にはその成果を統合して,体細胞ゲノム異常および生殖系列ゲノム多様性の組み合わせによる癌の個別化医療実現に向けての基盤作りを目指しています。
油谷 癌ゲノム研究は,これからの癌医療において大事な要素となりますね。
柴田 ヒトゲノム配列の解明がその後の生物学を変えたように,癌ゲノム解読も今後の癌医療を変えていくものだと思っています。
油谷 癌ゲノム研究を進めるうえで,立ちはだかる問題点などはございますか。
柴田 癌の発生には多数のゲノム異常が起こっていることがわかっていますが,それらすべてが癌の原因とは限らないので,癌の発症に重要な,いわゆるドライバー変異をどのように抽出するかは非常に難しい問題です。また,解析技術の進歩に伴い1検体より得られる大量のデータから直感的に癌を理解する新たな概念が欠落しているという問題にも直面しつつあります。
油谷 HCCのゲノム解析について,先生のご施設における現状はいかがですか。
柴田 当センターでは,次世代シークエンサーを用いてHCCの全ゲノム解読を進めており,突然変異に加えて,染色体の再構成やコピー数異常など多様な解析が同時に行えることから,HCCのゲノム異常パターンの全体像がわかりつつあるところです(図1)1)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る