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Laboratory Techniques(Trends in Hematological Malignancies)

第1回 血球形態学検査―どこまで裁けるか

波多智子

Trends in Hematological Malignancies Vol.3 No.3, 34-38, 2011

はじめに
 リンパ系疾患の診断は病理学的診断が中心となっていることが多く,さらに細胞表面マーカー,染色体や遺伝子の検査はリンパ系腫瘍の診断や分類に不可欠のものになっている。急性リンパ性白血病(ALL)や慢性リンパ性白血病(CLL)は一般的に病理学的診断よりも細胞形態診断が行われることが多いが,細胞表面マーカーなどの検査が重要かつ不可欠であることには変わりはない。

はじめに(続き)

 急性骨髄性白血病(AML)において1976年に提唱された臨床分類であるFrench-American-British(FAB)分類1)は白血病細胞の形態学的および細胞化学的診断に基づいた分類であった。その後,細胞表面マーカー,染色体検査,遺伝子診断が可能になり,AMLの診断においても必須の検査となっている。2001年2),さらに2008年に改訂されたWHO分類3)でも,染色体や遺伝子検査を中心とした分子病態に基づく分類への方向性が推進されている。
 このような状況の中で,血液内科医,特に若手の血液内科医において,形態診断を軽視する傾向がみられることが危惧されている。本稿では形態診断における注意点と骨髄系腫瘍の診断における形態診断の意義について概説することとする。

標本作製の方法

1.May-Grünwald -Giemsa(MG)染色,Wright -Giemsa(WG)染色のコツ

 正しい診断を行うためには,診断に耐えうる標本を作製することが重要である。末梢血や骨髄の塗抹標本の作製に最も使われている引きガラス法(wedge法)についてその注意点を記す。スライドグラスの端から1cmほどの位置に血液を0.5μLほどとり,引きガラスで広げる。約30°の角度のまま,一定の圧,一定の速度で引きガラスを滑らせると塗抹標本ができる。スライドの約3分の2程度の長さにするとよい。骨髄液は粘調度が高く,凝固しやすいため,採取後すぐに標本を作製しなければならない。骨髄液の吸引ができない状態(dry tap)であっても,穿刺針の先に付着している骨髄液を吹き付けた標本は診断意義が高いことが多く,必ず試みるべきである。塗沫直後に冷風で風乾させることが重要で,この過程を省くと,乾燥時間が足りないため白血球が縮こまり,クロマチン凝集が強く形態異常とみえたり,赤血球にウニ状の変形を認めるなど,観察には不適切な標本がしばしば見受けられる。
 細胞の形態をみるための基本染色はMG染色,またはWG染色である。pHがアルカリ性の場合に標本は青く染色され,酸性の場合は逆に赤みが強い染色になるため,至適pHを保つことが重要である。われわれの施設では,染色液は毎日使用直前に調整している。

2.細胞化学染色

 細胞化学染色は,芽球や異常細胞の帰属を決定する目的で施行される。代表的かつ診断に重要な細胞化学染色について記す。
1)ミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色
 MPOは骨髄系細胞において細胞化学的に検出しうる物質のうち,最も早期にリソソーム内に発現する。リンパ系の細胞には存在しないことからリンパ性の血球は陰性である。顆粒球系の細胞は陽性であり,単球系細胞は弱陽性に染色される。骨髄中の芽球が増加(AMLにおいては20%以上,ALLにおいては25%以上)しているものは白血病と定義され,芽球のMPO陽性率が3%以上であればAMLに分類される。正常芽球が残存している可能性も考慮し,陽性率が3%未満を陰性と判断する。陰性の場合は,ALL以外に,最未分化型AML(FAB分類のM0),急性単芽球性白血病(FAB分類のM5a),巨核芽球白血病(FAB分類のM7)の可能性があるため,表面マーカーによる検討が必須である。また,AMLや骨髄異形成症候群(MDS)ではMPO陰性好中球が認められることがあり,異形成の一種とみなされる。
2)エステラーゼ染色
 血球に含まれるエステラーゼは短鎖エステルを分解する特異的エステラーゼと長鎖エステルを分解する非特異的エステラーゼに分けられる。前者にはnaphthol AS-D chloroacetate,後者にはα-naphthyl butyrateやα-naphthyl acetateを染色の際の基質として用いる。特異的エステラーゼは好中球系細胞に存在し,非特異的エステラーゼは単球系細胞に存在する。両者を用いて同一標本を染色するエステラーゼ二重染色は,FAB分類のM2とM4の鑑別やM4とM5のような単球成分が関与する白血病の病型鑑別診断に有用である。顆粒球系細胞において特異的エステラーゼが欠損することはほとんどないが,単球系細胞の10~20%は非特異的エステラーゼが陰性のことがあり,注意すべきである。また,両者に二重に染色される細胞もみられることがある。

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