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わが国におけるインクレチンとグルカゴン研究―その源流を訪ねて―

インクレチン╱グルカゴン研究の流れと今後への期待―自らの33年を振り返って―

難波光義

International Review of Diabetes Vol.3 No.2, 72-81, 2011

For over 40 years, the research on incretin and glucagon has been extended and still advanced globally. Particularly in Japan, many researchers and/or colleagues in this field have investigated their distributions, characteristics, physiological actions and pharmacological potentials and have gotten results prior to overseas researchers. Very recently, the clinical indications and evaluations of the efficacy of DPP-4 inhibitors and/or GLP-1 receptor agonists have added in turn new information into the research field of incretin/glucagon. In the next decade, it would be expected that Japanese young investigators will join and go forward to elucidate the unsolved mysteries.

1980年代前半の腸管グルカゴン(Gut GLI)研究

 1978年から1980年にかけて,筆者らは腸管グルカゴン(gut glucagon-like immunoreactivity: Gut GLI)の分泌動態とその生理作用に関する研究を進めていた.Bellらによってpreprogucagonの全構造が明らかとなる1までの,謂わば"夜明け前"の状況にあったインクレチン(≒グルカゴン関連ペプチド)研究の時代である.図110は,その後直ちに明らかにされたヒトプログルカゴンの構造とL細胞およびA細胞における細胞特異的プロセッシング,それぞれの終末産物と現在考えられているそれらの生理作用をまとめたものである.

それまで筆者らが研究対象としていたのは,glicentinやoxyntomodulin,また当時その存在が不確かであった,さらに小分子型のglucagon 1-21などのGut GLIである.当時は,いずれもグルカゴンN端側非特異抗体とC端側特異抗体のsubtraction値でそれらの分泌動態を研究していた.
 研究指導者の松山辰男先生ともども,このGut GLIのうちいずれかの分子型が,すでに発見されていたGIPに続く第2のインクレチン候補ではないかと考えていた.それは松山先生ご自身が本誌第3巻第1号に記述されている2ように,Gut GLIが腸管内の糖質に対して,しかもそれらの分子構造特異的に分泌されることやインスリン欠乏糖尿病状態ではGut GLI分泌が亢進することなど種々の状況証拠に基づいていた.それが1983年のpreprogucagonの構造と臓器(細胞)特異的プロセッシングの解明,すなわちactive GLP-1の発見によってその作業仮説が否定されることになったのである.「Gut GLIはactive GLP-1のC-ペプチドに過ぎなかったのか?!」という述懐が,われわれの口をついて出た時期でもあった.
 一方,筆者はむしろGut GLIが回腸終末部(胆汁酸の再吸収部位でもある)に最も豊富に分布するL細胞から分泌されることにヒントを得て,Gut GLIが消化吸収の終焉を胃など上部消化管や膵胆道系にフィードバックするメッセンジャーではないかと想定していた.それは胆汁希釈液や抱合・非抱合胆汁酸を回腸ループに注入した際に,局所領域腸間膜静脈血中のGut GLI濃度が速やかに上昇すること(図2)3,そして腸管内にさらに大量の胆汁希釈液を注入するとGut GLI濃度の上昇とともに,膵液分泌4および胃酸分泌(図3)5が抑制されることを明らかにできたからである.

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