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若手ドクターと語る神経疾患研究・治療の明日

Spirited Message 井上治久×服部信孝

井上治久服部信孝

Frontiers in Parkinson Disease Vol.4 No.2, 44-47, 2011

はじめに─難病にチャレンジするために神経内科へ─
服部 今号では京都大学iPS細胞研究所から井上治久先生にお越しいただきました。井上先生は神経系のiPS細胞研究の若きエースとして,筋萎縮性側索硬化症(ALS)を中心に研究を進めておられます。まず,先生が医師を志し,神経内科を選ばれた理由からお聞かせいただけますか。

井上 難しいことを解決したときに喜びを感じる性質でしたので,科学の中でも人体に関することが最も難しいと考えて医学部に進みました。そして,原因不明の病気が多い診療科に挑戦してみようと思い,神経内科を選びました。

はじめに─難病にチャレンジするために神経内科へ─(続き)

服部 特にALSに強い関心を持たれたのには何かきっかけがありましたか。
井上 京都大学で1年間,その後住友病院で4年間,神経内科を研修しました。住友病院では亀山正邦院長(当時)や宇高不可思先生〔神経内科部長(当時)〕のアドバイスをいただいて,神経変性疾患の研究を志すようになりました。解剖まで担当させていただいたのはALSの患者さんが多かったので,多くの先生方と同じように忸怩たる思いがありました。そこで,ALSの病態を解明したいと強く思うようになりました。
服部 私が先生に初めてお会いしたのは,先生が理化学研究所(理研)におられた頃です。どのような経緯で理研に移られたのでしょうか。
井上 当時,分子遺伝学が盛んになり始めた頃でしたが,国立精神・神経センター(当時)の田平武先生がpresenilin 1 変異マウスの研究で,遺伝子からアルツハイマー病(AD)という神経変性疾患をつなぐ先端的な研究をされておりました。非常に魅力を感じて,研究室に入れていただきました。
 田平先生の1つの構想は,ミクログリアを外部から注入してADで見られる老人斑を除去させようという,その後開発されたワクチン療法に先立つ斬新なものでした。私は,田平先生に初歩からご指導いただいて,培養したミクログリアの脳移行を決定する因子について,遺伝子発現を調べる研究を行い 1),presenilin 1 変異マウスの研究にも参加させていただきました。
 その後,もともと神経変性疾患,特にALSの発症メカニズムを研究したいという思いがありましたので,当時留学から帰国された高橋良輔先生が行われていた神経細胞アポトーシスに対する反機能を持つ蛋白についての研究に参加させていただきたいと考え,高橋先生が移られた理研の研究室に入れていただきました。

神経再生医療のメッカへの留学─Visionを持つことの重要性を学ぶ─

服部 その後,神経再生医療の世界的な先駆者であるハーバード大学医学校のOle Isacson先生のもとにご留学されていますね。留学経験についてお聞かせいただけますか。
井上 理研では,アポトーシスやALSモデルマウスの研究をさせていただきましたが,1つの分子では病気を根本的に治癒することができないけれど,細胞移植治療であれば病気を根本的に治癒することができるのではと思うようになりました。そこで,高橋先生にも相談させていただき,2004年にハーバード大学に留学しました。
 ALSの移植治療ということで留学したのですが,既に担当者がおり,それについてはサブでかかわることになりました。そこで,Isacson先生には私がfirst playerとして行う研究プロジェクトに関して徹底的に考え,visionを明確にすることを課されました。約3ヵ月は実験もできず,論文を読み,自分の研究計画や実験方法についてIsacson先生とディスカッションする日々が続きました。私は留学したらすぐに実験を行えると短絡的に考えていたので,成果が出ないのではないかと非常に不安になりました。今となっては,コンセプトやプロセスを重視されるIsacson先生の方針は,その後の研究に非常に役に立っています。
 留学での1つの成果として,パーキンソン病(PD)では黒質でLINGO1(leucine-rich repeat and Ig domain-containing nogo receptor-interacting protein 1 )の発現が増えることに着目し,LINGO1の阻害がドパミン神経細胞の変性を抑制することをマウスで明らかにしました 2)。
 また,Isacson先生とのディスカッションで,私は胚性幹(embryonic stem:ES)細胞に神経変性疾患の患者さんの核を移植して,疾患モデルを作る実験を提案したことがありました。当時は技術的にも難しく実現しませんでしたが,私にとっては現在のiPS細胞を用いる研究の出発点になっています。
服部 私も,岡野栄之先生(慶應義塾大学医学部生理学教室 教授)と共同で,iPS細胞を用いて家族性PD患者さんの神経変性を再現する研究を行っています。iPS細胞から患者さんの細胞の“分身”を作ることができれば,患者さんの状態に最も近いモデルになります。それをツールとして,研究がより進むことが期待されます。
井上 私も,より患者さんに近いモデルを作ることによって,動物モデルだけでは不可能だった新たな治療法や薬剤の開発も可能になると考えています。

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