「はじめに」PI3K/Aktシグナル経路は乳癌を含むさまざまな癌で高頻度に活性化されている。この経路は癌の発生,進行,治療抵抗性に密接に関与しており,癌治療における重要な標的と考えられている。
「PI3K/Akt経路の活性化」PI3K/Akt経路は,HER2,EGFR,IGF-1Rなど受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase:RTK),PI3K遺伝子異常,phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome 10 (PTEN)やinositol polyphosphate-4-phosphate, type Ⅱ(INPP4B)の欠失・発現低下など,さまざまな要因で活性化される1)2)。PI3Kのp110サブユニットをコードするPIK3CAの変異は乳癌において最も高頻度に認められる異常である。Aktは下流に存在するFOXO, GSK3β, mTORなどのリン酸化を介して細胞生存,細胞周期制御,タンパク合成などを制御する。mTORはraptorとmTORC1複合体を形成し,p70S6K1を活性化,4E-BP1を抑制し,タンパク合成や細胞増殖を制御する。p70S6K1はエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)をもリン酸化することが示されている。一方,mTORはrictorとmTORC2複合体を形成し,Aktをリン酸化し活性化する3)4)。