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日常診療に役立つトピックス

乳癌の薬物療法(主にアバスチン)と血圧管理

金井雅史

CANCER BOARD 乳癌 Vol.5 No.2, 66-69, 2012

はじめに
 タイトルは「乳癌における薬物療法(主にアバスチン)と血圧管理」だが,筆者の専門は消化器癌である。したがって今回の内容は,乳癌ではなく大腸癌でのデータが中心になることをご容赦願いたい。
 わが国での乳癌に対するアバスチン(一般名ベバシズマブ)は2011年9月に保険承認されてまだ1年ほどであるが,大腸癌では2007年4月に承認されており5年近くの実臨床での使用経験がある。実臨床でアバスチンを投与する際に臨床医が特に気を使う副作用は腸管穿孔,出血,血栓症である。これらの副作用は死亡例も報告されている。一方,アバスチンによる高血圧はその頻度は高いものの降圧薬の投与によりコントロールは比較的容易で減量も特に必要ないことから,それほど注意を払っていない臨床医も多いのではないだろうか。このアバスチンによる高血圧だが,近年,治療効果との相関を調べた研究が増えてきている 1) 2)。本稿ではアバスチンによる高血圧とその管理,さらにアバスチンによる血圧変化と治療効果との関係について紹介する。

アバスチンによる高血圧のメカニズムとその頻度

 アバスチンは血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)に特異的なヒト化IgG1モノクローナル抗体である。アバスチンはVEGFが血管内皮細胞上のVEGF受容体に結合することを阻害することにより腫瘍血管新生を阻害し,癌細胞の増殖を抑制する。このVEGFのシグナル経路がブロックされると一酸化窒素(NO)産生も抑制され,血管が収縮したり腎臓におけるNa排泄が減少し,血圧上昇が起こるのではないかと推測されている(図1) 3)。

その他に正常な血管新生も阻害されるため,微小血管を中心とした血管床が減少することもそのメカニズムとして提唱されている 4)。アバスチン投与中に降圧薬を必要とするような高血圧が起こる頻度は,およそ10~30%と報告されている。大腸癌患者を対象とした国内特定使用成績調査によると治療開始後2ヵ月以内に発症するケースが多かったが(高血圧発症例の約64%),6ヵ月以降でも発症を認めていることから特に好発時期はないようである。海外の「Management Guidelines for Bevacizumab-Related Side Effects in Patients with Colorectal Cancer」にはアバスチン投与前,投与中,投与後の血圧モニタリングが推奨されている 5)。グレード4の高血圧性クリーゼは極めてまれで(<1%),幸いなことにこれまでのところアバスチンによる高血圧での死亡例は報告されていない。

アバスチンによる高血圧に対してどの降圧薬を使えばよいのか?

 ご存知のように降圧薬はアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),Ca拮抗薬,利尿薬,β遮断薬に大きく分類される。それぞれ長所・短所があるが,筆者はアバスチンによる高血圧に対しては主としてARBを用いている。これは先述の海外のガイドラインで,アバスチンによる高血圧に対してACE阻害薬もしくはARBが推奨されているためである。特に循環器系の基礎疾患がある患者さんでは,高血圧を放置すると脳・心血管イベントのリスクが上昇するため,通常の高血圧治療ガイドラインに準じて140/90mmHg未満を降圧の目標とする。
 アバスチンとは直接関係ないが,β遮断薬の使用が乳癌の予後を改善することを示唆するデータが2011年のJournal of Clinical Oncologyに2つの研究グループから報告されている 6) 7)。紙面の都合上詳しくは紹介できないので,興味のある方は原著を参照のこと。

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