キーワード解説
T reg cell
T reg細胞は1980年代,京都大学の坂口志文博士らによって初めて同定され,近年その機能が明らかとなった免疫自己寛容の維持に重要な役割を果たすT細胞である 1)。従来T細胞は免疫を活性化する機能のみを有していると考えられたが,免疫を制御(regulate)するT細胞(regulatory T細胞)が発見されたという意味では極めて意義が高い 1)。T reg細胞はCD4,CD25,FOXP3を発現していることで特徴付けられ,免疫の過活動を抑制する作用を有している。腫瘍においては,腫瘍細胞自身がT reg細胞を誘導することによりこの作用を逆手にとって,宿主の免疫機構を抑制し腫瘍増殖を自ら促進していることが報告されてきている 2) 3)。乳癌においては,腫瘍の進展とともにT reg細胞が増加することが報告され,この細胞浸潤の程度は浸潤癌>非浸潤癌>正常乳腺とされてきている 4)。T reg細胞は宿主の免疫機構が腫瘍を完全に生体系から除外には至らない最大の障壁の1つと一般的には考えられていて,T reg細胞の阻害が免疫療法の目標の1つとなっている。種々の動物実験ではT reg細胞の阻害により生存期間の延長といった興味ある研究成果も報告されてきており,現在さまざまな研究が進められている 5)-7)。
Tumor associated macrophage(TAM)
一般に腫瘍組織内に認められるマクロファージのことを指しており,病理学的には従来から大きな注目を集めていた。一般的にマクロファージは腫瘍により活性化されると種々の成長因子,サイトカイン,炎症メディエーターを放出し,癌促進的に働くことはよく知られてきた。そこでTAMの数が多ければ多いほど癌は転移し,予後が悪いことが多くのヒト悪性腫瘍で証明されてきている 8)-11)。このようなことからTAMは癌と炎症細胞をつなぐ極めて重要な因子と位置付けられてきており,TAMそのものを標的とした治療法が研究レベルではあるが開発され,大きな注目を集めている 11)。
全文記事
基礎からみた乳腺疾患
乳癌腫瘍免疫 update
掲載誌
CANCER BOARD乳癌
Vol.5 No.2 30-35,
2012
著者名
柴原 裕紀子
/
笹野 公伸
記事体裁
連載
/
全文記事
疾患領域
アレルギー・免疫
/
癌
診療科目
一般外科
/
腫瘍内科
媒体
CANCER BOARD乳癌
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。