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State of the ART(CANCER BOARD 乳癌)

腋窩マネジメント

髙田正泰戸井雅和

CANCER BOARD 乳癌 Vol.5 No.2, 22-29, 2012

ポイント

●センチネルリンパ節生検により転移陰性例に対する腋窩リンパ節郭清の省略が可能となった。

●微小転移の存在は予後不良因子となり得るが,そのインパクトの大きさは状況により異なる。

●術前療法時の腋窩マネジメントは議論の余地がある。

●特定のサブグループについてセンチネルリンパ節転移陽性であっても腋窩リンパ節郭清が省略可能であることが示唆される。

はじめに

 腋窩リンパ節郭清の臨床的意義は,いまだに不明瞭な点が多い。リンパ節の郭清には本質的にリンパ節転移の状況を知るという要素と転移巣の除去という要素が含まれる。実際にはその対象に組織学的リンパ節転移が存在しない症例,孤立性の腫瘍細胞のみが存在する症例から,10個以上のリンパ節転移を有する症例が存在し,転移巣の成立には癌細胞の増殖能,転移能だけでなく発見に至る時間などの患者要因も内包されている。したがって腋窩リンパ節郭清の臨床的意義を検討する上では,腫瘍径やリンパ節転移の個数別に分けて研究する,intrinsic subtypeや検診歴なども考慮に入れながら分析する必要があるが,一方で細分化を進めるほど臨床試験の実施は困難になるという二律背反を生じる。
 センチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy:SLNB)の導入により,転移陰性症例に対する郭清の省略は概念的に許容され,その後の臨床試験により検証された。センチネルリンパ節転移陽性の場合にどのように治療戦略を構築し検証するかが現在の大きな課題である。最近発表されたACOSOG Z0011試験のデータによれば,clinical T1-2N0,乳房部分切除および残存乳房への術後照射を施行された症例について,SLNBにて転移陽性(1~2個)の場合でもリンパ節郭清を省略しうることが示唆されている。さらに近年は術前薬物療法の導入により,腋窩においても全身薬物療法による修飾を考慮した治療戦略を立てることが求められてきている。本稿では,腋窩マネジメントに関して最近の知見を交えて議論したい。

センチネルリンパ節生検

 腋窩リンパ節転移は,原発性乳癌における最も重要な予後因子である 1)2)。従来より,ステージング,局所コントロール,予後改善を期待して腋窩リンパ節郭清(axillary lymph node dissection:ALND)が行われてきたが,National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B-04試験でALNDの有無により再発率や生存率に有意な差を認めないことが示された 3)。しかし,腋窩リンパ節転移は強力な予後因子であることには変わりはなく,薬物療法の適応判断に,そして局所の制御を目的として,ALNDは現在でも腋窩に対する標準術式の1つである。
 Krag,Giulianoらにより乳癌でのSLNBが報告されて以来 4) 5),SLNBのfeasibilityに関してさまざまな検討が行われてきた。初期の検討をまとめたメタ解析では,同定率96%,偽陰性率7.3%と報告されている 6)。ほぼ同様の結果が,ランダム化比較試験でも報告されている 7)-12)。精度は,RI法を用いたVeronesiらの報告によると正診率96.9%,偽陰性率8.8% 11),RI法と色素法を併用したNSABP B-32試験では正診率97.1%,偽陰性率9.8%である 8) 11)。
 近年わが国で開発された同定法としてインドシアニングリーン(ICG)を用いた蛍光色素法がある。ICGを乳房乳輪部皮内に注入し近赤外波長領域に感度を有するCCDカメラで観察することで,リンパ管内を流れるICGが検出可能であり,リンパ流の術中マッピングが可能となる。色素法の亜型であるが,リンパ流が体表からリアルタイムに観察可能なためマッピングが容易である点が従来の色素法と比較して優位な点である。同定率は99%と報告されており 13),今後が期待される方法の1つである。
 SLNBにて転移陰性であった場合のALND省略を検討したランダム化比較試験は,最近まで報告が少なかった。Veronesiらは腫瘍径2cm以下の516例を対象に,SLNBにALNDを必ず追加する群(ALND群),SLNBで転移陽性の場合のみALNDを追加する群(SLNB群)の2群で予後を検討した。その結果,乳癌関連イベント発生数や生存率は2群で有意な差を認めなかった 11) 14) 15)。
 NSABP B-32試験は,臨床的リンパ節転移陰性症例を,SLNBにALNDを必ず追加する群(ALND群),SLNBで転移陽性の場合のみALNDを追加する群(SLNB群)の2群にランダムに割り付けている。予後の比較は,SLNBで転移陰性であった3,986例を対象に行われた(図1-A)。

その結果,SLNB群とALND群の2群で全生存率,無病生存率に差を認めなかった(図1-B) 16)。これにより,SLNBでリンパ節転移陰性である症例に対してALND省略することの医学的根拠が示された。American Society of Clinical Oncology (ASCO)のガイドライン 17),あるいは日本乳癌学会の診療ガイドラインなどにおいても,SLNBでリンパ節転移陰性であった症例に対するALND省略の妥当性が認められており,今日では広く臨床で行われるようになってきた。
 さらに,近年ではSLNBにて転移陽性であった場合のALNDの必要性について議論が始められており,腋窩マネジメントは次の段階へと踏み出そうとしている。これについては後述する。

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