私と胃癌
第4回 胃癌の腫瘍外科学の温故創新を求めて―敬天究理―
胃がんperspective Vol.9 No.3, 58-63, 2017
「温故創新」,「敬天究理」,いずれも私の造語である。温故知新でなく創新と強調したのは,癌治療における腫瘍外科学に関する先人の成し遂げた偉業を学び,さらに新たな知見を創造し発展させたいとの私どもの研究に対する想いからである。私は,西郷隆盛先生を殊のほか敬愛する者の一人で,先生の理念,「敬天愛人:至誠に徹し,親愛の温情をもってことにあたり,天を相手にして,己のベスト尽くす。人や環境をとがめずして,未だわが誠の足らざるを思え」の教えを大切にしてきた。すなわち「敬天究理」とは,臨床に対し至誠に徹し,研究に対し理を究め,医学・医療の発展に対し挑戦するという観点から,私の座右の銘にしている。
思い起こせば,私が大学を卒業した昭和44 年は,時まさに学園紛争の絶頂期であった。私は学業以外のさまざまなことに興味をもち,多感な学生時代を過ごしたような気がする。安保・インターン闘争にもノンポリとして流され,かかわったこともあった。結局,私ども昭和44 年組は,卒業式もなく,医局は封鎖され入局もできずに,仲間は皆,全国に散っていった学年であった。卒業後,鹿児島に帰り,ぶらぶらしていた折,「外科医にならないか? 外科も面白いぞ」と縁あって内山八郎先生(当時鹿児島大学教授)に拾われたのが外科医となるきっかけであった。外科治療は経過が明確で,白黒はっきりしていて,やりがいがありそうだと思い,「存在感のある外科医になろう」と決心したことを今でもよく覚えている。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。