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特集 次期改訂に向けて~大腸癌取扱い規約の改訂に望むこと

特集にあたって

杉原健一

大腸癌FRONTIER Vol.5 No.3, 13, 2012

大腸癌研究会は, 1973年6月に「大腸癌取扱い規約」を作成するために設置された「規約委員会」が設立母体であり, 初代会長に陣内傳之助先生(大阪大学医学部第二外科教授)が就任されました. 「規約委員会」は外科系と病理系に分かれており, 外科系は陣内先生が, 病理系は太田邦夫先生(東京大学病理学教室教授)が委員長となり, 「大腸癌取扱い規約」の作成にあたりました. その後, 1975年からは内科, 放射線科の先生方も規約委員会に加わり, 数十回以上の会議を経て1977年10月に「大腸癌取扱い規約」第1版が刊行されました. 第1版の序文に陣内先生が記載されているように, 作成の基本方針は「大腸および大腸癌の特異性を十分尊重, 考慮するとともに, 同じ消化器癌である胃癌や食道癌の規約との間にあまり大きな違いがないようにすること」でした. 「大腸癌取扱い規約」の刊行により, 検査所見, 手術所見, 切除標本の病理所見を規約に従って記載・登録し, データベースを構築することが可能になり, 1979年に発足した「全国登録委員会」が大腸癌全国登録を開始しました. その後, 所見記載における臨床的な問題点, 病理的な問題点の改善のため「大腸癌取扱い規約」の改訂が6回行われました. 大腸癌の進行度分類は世界的にはDukes分類が用いられており, それを基盤としたTNM分類やAstler-Coller分類も使用されていました. それらにおけるリンパ節転移の分類は, 転移陽性リンパ節個数に基づくものでした. 一方, 「大腸癌取扱い規約」では, 第6版まで, リンパ節転移の分類はリンパ節の"部位"による分類がなされていました. 「大腸癌取扱い規約」第6版を改訂するにあたり, 世界的にはTNM分類が主流となってきたことや, 日本の臨床データを英文論文として発表する機会が増えてきたこと, 医療分野の国際交流の機会が増えてきたこと, などの理由から, 「大腸癌取扱い規約」もTNM分類との整合性を図るようになりました. その際に問題となったのは, 「大腸癌取扱い規約」は単に所見の記載の方法や進行度分類を規定しているだけでなく, 転移陽性リンパ節の部位を明らかにすることにより, 適切なリンパ節郭清範囲を検討・提示していることでした. このように, 日本の大腸癌治療方針の根幹を支えるデータの蓄積に必要な記載法, 分類法は, 日本独自のものとして現在も「大腸癌取扱い規約」に掲載されるとともに, その必要性について検討が続けられています. 「大腸癌取扱い規約」第6版の改訂中に「大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版」の作成が始まり, 「大腸癌取扱い規約」に記載されている"治療方針"に関する記載は「大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版」に移行することが試みられました. 今回の「大腸癌取扱い規約」第7版の改訂にあたり, 「大腸癌治療ガイドライン」も並行して改訂される予定であり, 両者の住み分けがより明確になるものと思います. さらに, 「大腸癌取扱い規約」に記載されている分類法のうち, 客観性に乏しい分類法の検討がプロジェクト研究として行われています. また, プロジェクト研究により, いくつかの新たな大腸癌の予後因子が明らかになりました. これらを「大腸癌取扱い規約」においてどのように扱うのかが, 次期改訂の大きな課題だと思います. 本企画では, 大腸癌診療における各領域の専門家に「大腸癌取扱い規約」の改訂(第8版作成)にあたっての問題点と, 改訂に際しての要望を述べていただきました. 本企画により議論が深まり, よりよい改訂の一助となることを望みます.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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