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この人に聞く!大腸癌最前線

癌の転移・浸潤メカニズムの解明に向けて

~マウスモデルを用いた研究で世界をリード~

武藤誠森正樹

大腸癌FRONTIER Vol.4 No.3, 94-99, 2011

分子生物学や遺伝学の進歩は,癌の転移・浸潤メカニズムの研究に直結している。武藤誠氏は,これまでに消化管腫瘍発生にかかわるさまざまな遺伝子組換えマウスを作製し,その解析により,癌の転移・浸潤にかかわる機序を分子生物学的,遺伝学的に明らかにしてきた。近年では,癌細胞と間質の細胞との相互作用に関する研究や,骨髄由来細胞の浸潤を阻害することによる癌転移の抑制に関する研究において,世界的に注目される業績を上げている。

本稿ではこれまでの研究を振り返るとともに,分子生物学領域における大腸癌の最新知見について解説いただき,若手医師への示唆をいただいた。

兄姉ともに医学の道に文学青年だった学生時代

 それでは,先生が医学部に入学された経緯からお聞かせいただけますでしょうか。
武藤 兄姉が医学部を出ていましたので,私にとっては自然なコースだったということがあります。また,兄は医学部を卒業後,基礎研究の道に進みましたので,研究者になるという道も身近に感じていました。
 京都大学進学を志望されたのには何か特別な理由があったのでしょうか。
武藤 高校を卒業するまで金沢という静かな町に育ったので,東京に比べて静かな京都の方が自分には合っているのではないかと漠然と考えていました。結局,大学院で学位を取るまでの11年間を京都で過ごしました。
 学生時代はどのようなことに興味をおもちでしたか。
武藤 父が高等学校の国語教師をしていたため,家には数多くの文学書があり,高校生の頃から文学青年でしたね。
 医学,薬学の学生にお勧めの本はありますか。
武藤 学生の頃に読んで感銘を受けた本の一つは,ジェームス・D・ワトソンがDNAの構造の解明について記した『二重らせん』です。とても面白く,訳本を読んでから,英語の原本も手に入れて読みました。これは日本語訳も大変よくできていると思います。それからもう一冊は,カナダのハンス・セリエというストレス学説の先生が書かれた『夢から発見へ』という本です。タイトルは大仰ですが,著者が語りかけるように,研究とはどういうものなのかということを綴っています。とても印象に残っていて,今でも大部分を覚えています。

臨床経験を経て大学院に分子生物学の分野で博士号取得

 大学卒業後,どのように進路を決定されたのでしょうか。
武藤 当時は京都大学に限らず,分子生物学に関する研究や教育は,医学部ではなく理学部で行われていました。ですから,分子生物学に興味をもっていた私は,医学部の生化学研究室に顔を出すと同時に,大腸菌の分子生物学を研究している理学部のセミナーにも参加させてもらっていました。大分迷った末に,大学院では分子生物学を研究することにしました。
 臨床は経ずに,直接研究に進まれたのでしょうか。
武藤 われわれの学年は大学紛争の影響で,全員が9月卒業となりました。大学院の試験は3月でしたし,もともと臨床にも興味はありましたので,試験までの半年弱,内科の研修医をしました。患者さんやたくさんの先輩,あるいはコメディカルなどと触れ合いながら仕事をするということはとても面白く,大変勉強になりました。
 臨床経験としてはほかに,大学5回生と6回生の夏休みにそれぞれ,刀根山病院,大阪赤十字病院で実習を行いました。1年目に実習に行った刀根山病院は,当時は結核療養所でもあり,現在ではみられない典型的な結核患者さんをたくさん診察することができました。また,同院には結核研究所もあり,いろいろなお話も聞かせていただきました。
 大学院では,具体的にどのような研究に取り組まれたのでしょうか。
武藤 大腸菌のRNAポリメラーゼを研究している研究室に入り,学位を収得しました。当時,すでにセントラルドグマが唱えられ,遺伝子は全部同じとされていました。ところが,高等動物の組織をみると,皮膚も消化管も同じDNAなのに,つくられるRNAもタンパクも違う。このいわゆる形質発現の制御というのは何なのかということを知りたいと思ったのです。

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