てんかん最前線
人工多能性幹細胞(iPSC)を利用した病態解析
Epilepsy Vol.16 No.2, 37-45, 2022
「てんかん(epilepsy)」は最も一般的な神経疾患のひとつであり,世界中で約5,000万人もの患者が罹患している.いくつかのてんかん疾患における病因遺伝子として,てんかん関連遺伝子が同定されているが,その大多数の分子病態機序はいまだに不明瞭のままである.また,てんかん患者の約3分の1は,従来のASM(antiseizure medication:抗てんかん薬)に抵抗性を示す難治性疾患であり,効果的な治療法も未確立である.
山中伸弥教授らにより2006年に初めて作製に成功したマウスの人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPSCs,以下iPS細胞)技術は,今もなおさまざまな分野で発展を続けている1-3).てんかん研究の分野においても,根底にある病態機序の解明や,新しい治療法を開発するための優れたツールとしてiPS細胞が活用されている.例えば,てんかん患者由来の疾患特異的iPS細胞を用いて病態細胞を作製することで,患者脳内で発症する「てんかんの病態」をモデル化することが可能となっている.これにより,詳細な病理機序を解明することができ,てんかんの病態に基づいた新しい治療薬や治療法の開発につながっている.本稿では,iPS細胞について簡単に紹介したあとに,疾患特異的iPS細胞を活用した病態研究に関する最新の知見を紹介する.
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