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Special Articles(Epilepsy)

①新生児発作の分類―ILAEの新分類について―

久保田哲夫

Epilepsy Vol.16 No.2, 11-17, 2022

新生児発作(neonatal seizures)は,新生児の中枢神経障害を示唆する重要な徴候で,すみやかな診断・病因特定・治療介入を必要とする.新生児発作を引き起こした原疾患の脳への影響に加え,新生児発作自体が児へ悪影響を及ぼし,さらなる脳障害を助長する可能性もある.
新生児の大脳皮質は未熟なため,一般に皮質由来の症状は出現しにくい.脳の局所異常を反映した神経症状が単独で出現することは少なく,他の全身症状を伴って出現することが多い.新生児発作に関する研究・分類は,Volpeの分類やMizrahiらの分類など古くから数多くあるが,実は定義そのものが曖昧であり,また,臨床的観察に頼ったものが多く,新生児発作の重要な特徴である臨床症状と発作時脳波所見の乖離(electro-clinical dissociation)が解決されていなかった.低体温療法の普及などにより新生児脳波モニタリングの重要性が認識されるようになり,客観的指標である脳波検査を施行せず臨床的観察のみで新生児発作を診断することは困難で不確実であることも数々報告された1,2).また,低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy:HIE)では,報告によりさまざまではあるが,50~80%が電気的な活動のみで臨床症状を認めない新生児発作〔electrographic-only(without clinical signs)〕だといわれている3,4).これらからも脳波検査なしで新生児発作の診断を行うのは不可能であることは明白である.
このような背景のなか,2017年のてんかんに対する国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)の分類5-7)に沿うかたちで,2021年に新生児発作の新しい分類と枠組みが提唱された8).今後臨床に広く利用されるものと思われる.ILAEの新分類で最も特筆すべきことは,①新生児発作の診断には脳波検査が非常に重要な役割を果たすことを強調したこと,②新生児発作は原則すべて焦点起始発作であると明記し,全般起始発作と焦点起始発作に分類する必要はないとしたこと,③新生児発作は脳波所見をもって診断し,臨床症状を認める新生児発作〔electro-clinical(with clinical signs)〕と電気的な活動のみで臨床症状を認めない新生児発作があると明示したこと,④発作の記述は主となる臨床的特徴によって決定され,新生児では意識の正確な評価は困難であるため,焦点起始発作を意識保持(aware)と意識減損(impaired awareness)に分類することはせず,運動性(motor),非運動性(non-motor),および変遷性発作(sequential seizure)に分類したことである.本稿では新生児発作の総論,およびILAEの新分類について概説する.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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