診断と治療(Epilepsy)
脳卒中後てんかんに関する前向き観察研究~PROPOSE研究~
Epilepsy Vol.16 No.1, 23-29, 2022
はじめに
脳卒中の後遺症のひとつである脳卒中後てんかんは,高齢者のてんかんの最大の原因となっている.近年,急性期脳卒中診療の劇的な進歩に伴い,死亡率の改善とともに脳卒中後てんかんの潜在的なリスクを持つ脳卒中生存者は増加の一途をたどっている1).抗てんかん薬は脳卒中後てんかん治療の中心であり,多くの症例は抗てんかん薬単剤投薬にて十分に制御可能と考えられているが,実際は1年間に約30%程度の脳卒中後てんかんが発作の再発を経験しており2),seizure free(発作のない状態)を目的と考えると十分とは言えない.米国と欧州のガイドラインによると3,4),抗てんかん薬のなかでも新世代抗てんかん薬であるレベチラセタム(LEV)およびラモトリギン(LTG)が,副作用が少ないということで推奨されているが,脳卒中後てんかんの発作抑制という観点において,新世代抗てんかん薬が旧世代に比較して優れているかどうかの大規模な研究は存在しておらず,本研究5)を着想した.
方法
1.研究デザインと患者
本研究は多施設前向き観察研究にて施行した(PROgnosis of Post Stroke Epilepy:PROPOSE研究)5).2014年11月から2018年9月の間に脳卒中後てんかんと診断され,入院した患者をわが国の8つの病院(国立循環器病研究センター,済生会熊本病院,東京都健康長寿医療センター,中村記念病院,神戸市立医療センター中央市民病院,聖マリア病院,国立病院機構岡山医療センター,トヨタ記念病院)にて登録した.国際抗てんかん連盟の診断基準に基づき,脳卒中後てんかんの診断は脳卒中発症7日以降に非誘発性発作を認めたものとした6).急性症候性発作,無症候性脳卒中のみの病歴,他の原因の判明しているてんかん,頭蓋内腫瘍,外傷性脳損傷,アルコールまたは薬物乱用例は除外とした.
2.臨床的特徴
年齢,性別,体重,心血管リスク因子(高血圧症,脂質異常症,2型糖尿病,慢性腎臓病,心房細動),認知症,飲酒,てんかんの家族歴,および抗てんかん薬投薬歴,early seizure(早期発作)の有無を確認した.脳卒中病型は脳梗塞,頭蓋内出血,くも膜下出血,一過性脳虚血発作,心原性脳塞栓症に分類し,皮質病変の有無,領域(前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉)とサイズ(15mm未満,15~30mm,30mmより大きい)を頭部MRIもしくはCTにて確認した.脳波所見についてはてんかん性放電の有無などについて確認した.脳SPECT検査については発作に伴う過灌流領域の有無について確認を行った.
3.エンドポイント
退院時の抗てんかん薬を旧世代抗てんかん薬〔カルバマゼピン(CBZ),バルプロ酸(VPA),フェニトイン(PHT),フェノバルビタール(PB),クロナゼパム(CZP),クロバザム(CLB)〕,新世代抗てんかん薬〔レベチラセタム(LEV),ラモトリギン(LTG),ラコサミド(LCM),ゾニサミド(ZNS),ぺランパネル(PER),ガバペンチン(GBP),トピラマート(TPM)〕の2群に分類した(図1).抗てんかん薬の選択については非介入試験であり,医師の裁量に委ねられた.一次エンドポイントは,退院後1年間における抗てんかん薬内服中の発作再発,二次エンドポイントは抗てんかん薬の服薬継続ならびに副作用による減量,中断(忍容性)とした.イベントの有無については外来にてフォローし,フォロー困難な症例は,電話にて本人,家族,かかりつけ医に半年ごとの確認を行った.
4.統計
変数はWilcoxon検定または,Pearsonのχ²検定にて比較した.てんかん発作の再発,抗てんかん薬の服薬継続率,忍容性についてはKaplan-Meier法で分析を行い,log-rank法にて比較した.観察期間中の死亡,追跡不能例は最終観察日を打ち切りとした.ハザード比についてはCox比例ハザードモデルを用いて,性別,年齢,単変量解析でp値が0.1未満の因子(脂質異常症,認知症,側頭葉病変,てんかん性放電)を含めて多変量解析を行った.
すべての統計分析は,JMP 12.2.0ソフトウェア(SAS Institute Inc. 米国)にて施行した.
結果
2014年11月から2018年9月までに合計392例の脳卒中後てんかんが前向きに登録され,退院時に抗てんかん薬服薬のない20例,新世代・旧世代抗てんかん薬を併用している50例を除いた,新世代抗てんかん薬群(286例),旧世代抗てんかん薬群(36例)を対象とした(図1).全322例中,111例(34.5%)は以前に脳卒中後てんかんと診断されており,90例(28.0%)は入院前に抗てんかん薬投薬を受けていた.脳卒中病型は,脳梗塞199例(61.8%),心原性脳塞栓症93例(28.9%),頭蓋内出血114例(35.4%),くも膜下出血21例(6.5%),一過性脳虚血発作3例(0.9%)であり,病型重複例は15例(4.7%)であった.入院時185例(57.5%)がてんかん発作を示した.脳波所見では104/310例(33.5%)にてんかん性放電を,脳SPECT検査所見では75/123例(61.0%)が発作に伴う過灌流領域を認めた(表1).新世代抗てんかん薬群では,LEVが最も多く,続いてLCM,LTG,ZNS,PERの順であった.旧世代抗てんかん薬群では,CBZ,VPA,PHTの順であった(図1).
一次エンドポイントについては,観察期間371日(中央値,四分位範囲:347~420)において90日時点の非発作再発率は88.2%,180日時点は78.3%,1年時点は69.0%であった.新世代抗てんかん薬群は,旧世代抗てんかん薬群と比較して有意に発作再発率が低かった(p=0.0003,log-rank)(図2a).Cox比例ハザードモデルにおいても,旧世代抗てんかん薬に対し,新世代抗てんかん薬のハザード比は0.47(95%CI:0.29~0.81,モデル2,表2)と有意に発作再発リスクが低値であった(表2).
二次エンドポイントについては,観察期間内の服薬継続率は新世代抗てんかん薬群で72.0%,旧世代抗てんかん薬群で36.5%であった(p<0.0001,log-rank)(図2b).Cox比例ハザードモデルでも調整後ハザード比は0.35(95%CI:0.21~0.61)(表2)であった.抗てんかん薬忍容性については,新世代抗てんかん薬群が副作用による中断,投薬量変更が少ない傾向はみられたが,有意差は得られなかった(図2c,p=0.12).
本研究は観察研究であるため,新世代抗てんかん薬群が旧世代抗てんかん薬群に比べ非常に多い結果となった.そこで,本研究の結果を追証するために,当院で旧世代抗てんかん薬にて加療,予後が追跡可能な症例69例を後ろ向きに追加し,解析を行った.新世代抗てんかん薬群(286例)は,旧世代抗てんかん薬群(105例)と比較して,てんかん発作再発抑制,服薬継続率,抗てんかん薬忍容性において有用性を示した(図3).Cox比例ハザードモデルにおいても同様の結果を示した〔発作再発リスク(ハザード比 0.63,95%CI:0.41~0.99),服薬継続率(ハザード比 0.50,95%CI:0.33~0.79),抗てんかん薬忍容性(ハザード比 0.24,95%CI:0.11~0.53)〕.
考察
本研究は,脳卒中後てんかんの発作再発抑制において新世代抗てんかん薬の有用性を示した.PROPOSE研究は,発作抑制という観点において,新世代抗てんかん薬群は旧世代抗てんかん薬群と比較して約50%の発作再発抑制を達成したが,焦点てんかんに対する既報告のメタ解析では,発作コントロールにおいて新世代抗てんかん薬の統計学的な有効性は証明されていない7).また,これまで脳卒中後てんかんを対象としたランダム化比較試験は2編のみであり,新世代抗てんかん薬が旧世代抗てんかん薬よりも副作用が少ないと報告されているが,サンプルサイズの問題により,発作抑制効果において有意差は得られていない8,9).台湾からの後ろ向き観察研究ではPHTと比較して,VPAと新世代抗てんかん薬のほうが,発作再発が少ないという報告があるが10),保険データベースを用いた研究であり,診断精度の問題が考えられる.PROPOSE研究で,有意差が得られた原因として最も考えられるのは,以前のランダム化比較試験と比較して,PROPOSE研究では旧世代抗てんかん薬の投薬量が少ないことが挙げられる.従来のランダム化比較試験では,CBZは約600mg/日,VPAは1,000mg/日程度が用いられることが多いが,PROPOSE研究では,単剤療法としての平均維持投与量は,CBZ 213mg/日,VPA 471mg/日であった.しかし,新世代抗てんかん薬群については既報告のランダム化比較試験と同等の投薬量が使用されており,このことが発作抑制という効果に差をもたらした可能性がある.
では,旧世代抗てんかん薬の低用量が選択された理由については,脳卒中後てんかん症例が高齢(中央値 75.5歳)であること,また,日本人ではスティーヴンス・ジョンソン症候群のリスクの高いHLA-A*31:01キャリア率が15%と高い(欧米人 5%)11)という背景により,実臨床(PROPOSE研究)においては,旧世代抗てんかん薬群での重篤な副作用を避けたいという医師の裁量が影響したと考える.また,焦点てんかんのなかにおいて,脳卒中後てんかんの発作再発率は高い(基礎疾患において脳卒中で71.5%,外傷性脳損傷で46.6%,中枢神経系感染症で63.5%が10年間に発作再発)12)ことも寄与した可能性が考えられる.
また,脳卒中後てんかん患者は,高齢であることから,薬物の併用を必要とする複数の併存疾患があることが多いため,抗てんかん薬による薬物相互作用を極力減らす必要性がある.とくに肝代謝酵素を誘導するCBZ,PHT,PBは,抗血栓薬の血中濃度の減弱化,スタチンの効果を妨げる可能性が報告13)されているため,注意が必要である.そういった観点からも,薬物相互作用の少ない新世代抗てんかん薬は合理的な選択であると考えられる.
結論
本研究の限界として,前向きの観察研究であること,旧世代抗てんかん薬群の割合が少ないこと,旧世代抗てんかん薬群が低用量であることが挙げられ,PROPOSE研究のみで,てんかん発作再発抑制に新世代抗てんかん薬群が旧世代抗てんかん薬群より勝るという結論を導くことは困難であるが,実臨床においては,旧世代抗てんかん薬は発作抑制効果と副作用の安全域の狭さが低用量をもたらし,結果的に発作再発リスクを増加させるが,新世代抗てんかん薬は必要十分な投薬量の確保が安心して可能となり,高い発作抑制効果を維持していることが判明した.
謝辞
本研究にご協力いただきました,京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座の池田昭夫先生,同研究科脳神経内科の下竹昭寛先生,小林勝哉先生,神戸大学大学院医学研究科内科学講座脳神経内科学分野の松本理器先生,国立病院機構岡山医療センター脳神経内科の真邊泰宏先生,神戸市立医療センター中央市民病院脳神経内科の吉村元先生,済生会熊本病院脳神経内科の松原崇一朗先生,聖マリア病院脳血管内科の松木孝之先生,東京都健康長寿医療センター脳神経内科の村山繁雄先生,本山りえ先生,トヨタ記念病院脳神経内科の鈴木淳一郎先生,中村記念病院脳神経内科の溝渕雅広先生にこの場を借りて深謝いたします.
References
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。