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てんかんからみる人物の横顔~異論異説のてんかん史~

ローマ教皇ピウス9世のてんかん

松浦雅人

Epilepsy Vol.15 No.2, 55-59, 2021

ピウス9世(Pius Ⅸ,1792~1878)は史上最も長く在位したローマ教皇で,教皇領の終焉と統一国家イタリアの誕生を目撃し波乱に富んだ人生を送った.Sirvenらは,ピウス9世のてんかんについて『Mayo Clinic Proceedings』誌に報告し,カトリックの教義に与えた影響について考察している1).それによると,ピウス9世は15歳のときにてんかんを発症し,聖母マリアが受胎告知を受けた聖なる家が保存されている聖地ロレートに,病気平癒を祈って母親とともに毎年巡礼した.21歳から5年間,グレゴリアナ大学で神学を修めているあいだに,てんかん発作は消退し,ピウス9世はロレート巡礼のおかげでてんかんが治癒したと感じたという.ピウス9世のこの経験が,教皇就任後に召集した第1回バチカン公会議で,「聖母マリアの無垢受胎説」を決議したことと関連しているのではないかと考察している1).また,少年のときには教皇の近衛兵になる夢をもっていたが,てんかんを発症してこれをあきらめたことが,その後の教皇に登りつめる道を開くことになったと述べている1).本稿ではピウス9世のてんかんについて改めて紹介し,教皇を務めた19世紀のカトリック教会への影響について考えてみたい.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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