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てんかんからみる人物の横顔~異論異説のてんかん史~

てんかんに擬せられた宗教教祖

─ジョージ・フォックス,アン・リー,ジョセフ・スミス─

松浦雅人

Epilepsy Vol.14 No.2, 55-60, 2020

DevinskyとLai1)は,てんかんが疑われる歴史上の人物として,ジョージ・フォックス(George Fox,1624~1691),アン・リー(Ann Lee,1736~1784),ジョセフ・スミス(Joseph Smith,1805~1844)といった宗教教祖の名前を挙げ,てんかんと宗教との親和性を強調している.ジョージ・フォックスは17世紀の英国で,22歳の時にキリストの声を聞き,すべての人に内在する「内なる光」を確信し,個人の霊的体験を重視する「クエーカー信仰」を創始した.
SaverとRabin2)は,アン・リーとジョセフ・スミスは側頭葉てんかんの可能性があるとし,アン・リーについては子ども時代から中年期まで神秘的な幻を見て,神の声を聞き,神の啓示を受けたことを根拠にしている.アン・リーは18世紀の英国で急進的なクエーカーの一派の信仰にふれ,獄中でキリストと一体化した神秘的な体験をし,啓示を受けて米国に渡って「シェーカー」と呼ばれるキリスト再臨信仰者の会を組織して理想主義的共同体をつくった.
DewhurstとBeard3)は,ジョセフ・スミスのてんかんの可能性について述べ,スミスが14歳の時に体験した神秘的なエピソードを紹介している.それは,「突然奇妙な力にとらわれ,言葉が出なくなり,明るい光の柱のなかに浮かぶ2人の神聖な人物を見て,神の啓示を受けた」というものである.ジョセフ・スミスはくりかえし神からの啓示を受け,イエス・キリストが真のキリスト教会を回復させるという使命を与えた預言者として行動し,19世紀初頭の米国で「モルモン教」を創始した.
クエーカーの創始者ジョージ・フォックス,シェーカーの創始者アン・リー,そしてモルモン教の創始者ジョセフ・スミスは,いずれも神秘的な回心あるいは啓示を経験した.回心あるいは啓示とは,信仰に誠心誠意対峙している時や,絶望などによる徹底した自己放棄の際に,突然神秘的な霊感を受け,神の声を聞き,姿を見,自分は正しく幸福であると直感する.しばしば宗教的救済として人生が一変し,新しいエネルギーが生じて再生の契機となる.不意にやってきて,自分ではコントロールできず,意識の均衡を転覆させるような侵略的な経験である.てんかんやてんかん発作との親和性が指摘されているが,あらためてその可能性について考察してみたい.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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