てんかんを有する女性の臨床において,妊娠中や母乳育児中に投与された抗てんかん薬の,胎児や出生後の児に与える影響は古くから注目されてきた課題である.動物モデルを用いた研究では妊娠期間中の母体への抗てんかん薬投与により,胎仔に影響が生じることが報告されていたが1, 2),人体に実際に投与した場合の結果を把握するため,これまで数多くの臨床的な検討がなされてきた.このテーマに関する研究が開始された当初は,施設ごとに研究者単位で調査がなされていたが3, 4),母集団が小さく,かつ処方内容にも偏りがあるなどの課題が存在した.そのため,およそ20年前より世界各地で,妊娠が判明した段階で症例を登録し,その転帰を記録する前方視的調査,いわゆるレジストリーが立ち上げられた.製薬会社が各抗てんかん薬の催奇形性を調査するために開始したレジストリー5, 6)や,国や地域の有志が開始したレジストリーがあるが,現在も活動中の主要なレジストリーとしては,北米を主体としたNorth American AED Pregnancy Registry7),英国のUK Epilepsy and Pregnancy Register(UKEPR)8),そして,当初はヨーロッパ各国を中心として開始され,現在では世界規模で展開しているEuropean Registry of Antiepileptic Drugs and Pregnancy(EURAP)9)が挙げられる.それぞれ,症例を登録する方法や情報を登録する時期,奇形の定義などが異なるため(表1),単純に得られた結果を比較することはできないが,いずれも前方視的な調査であり,相当数の症例を集積した結果として発表されたデータはエビデンスレベルの高いものである10).抗てんかん薬の催奇形性を検討する目的で立ち上げられた各レジストリーであるが,実際には発作頻度なども調査されており,てんかんを有する女性の妊娠例の臨床に関し,さまざまな実態を明らかにする点でも貢献している.