投稿論文
総説「脳腫瘍関連てんかんの薬物療法」
Epilepsy Vol.12 No.2, 59-64, 2018
はじめに
脳腫瘍患者の診療では,しばしば,てんかん発作を経験する.脳腫瘍の30%以上にてんかんを合併するといわれ1),てんかん発作により脳腫瘍の診断に至る例も多い.日本脳神経外科学会の脳腫瘍全国集計調査報告では,初発症状がてんかん発作であった悪性脳腫瘍患者は18%にものぼるとされている2).
脳腫瘍は他の脳器質病変と比較して,てんかん発症のリスクはかなり高い(図1).てんかん有病率は人口の約1%といわれるが,脳腫瘍患者のてんかん発症の相対リスクは40倍にも達し,くも膜下出血の34倍や重症頭部外傷の29倍より際立って高い3).
脳腫瘍に合併するてんかん発作は,Todd麻痺のような運動障害や認知障害を引き起こし大幅に患者のQOL (quality of life) を低下させるので,極力制圧することが重要である.しかし,脳腫瘍関連てんかんは,腫瘍細胞内から細胞外への薬物排出に関するABC輸送体遺伝子や多剤耐性関連蛋白の高発現などにより,他のてんかんより薬剤耐性を獲得しやすく,難治化したり,さらに重度のてんかん重積状態に至ることも少なくないといわれている1).てんかん発作を制圧することは患者のQOL向上につながるが,そのために多剤,大量の抗てんかん薬を投与することは副作用の点から望ましくない.また,多くの患者は,すでに抗腫瘍剤やステロイドをはじめさまざまな薬物治療を受けており,これらとの相互作用に対する配慮も重要である.
近年,新規抗てんかん薬の登場に伴い,特徴ある作用機序をもつ,強力で副作用が少ない薬剤がこれら脳腫瘍患者にも利用できるようになってきた.本稿では,脳腫瘍関連てんかんの特徴について紹介し,てんかんの薬物療法について解説する.
1 脳腫瘍におけるてんかんの疫学と発症機序
てんかんの発症率は,脳腫瘍の種類や発症部位によって異なる1,4,5).胚芽異形成性神経上皮腫瘍 (dysembryoplastic neuroepithelial tumor:DNT) では100%,神経節膠腫 (ganglioglioma) においては80~90%と高頻度にてんかんを発症する(表1).低悪性度 (Grade 2) の星細胞腫 (astrocytoma) における発症率は75%に対し,悪性の膠芽腫 (glioblastoma:GBM) では29~49%である.低悪性度の腫瘍にてんかんの発症率が高い傾向にある.悪性度が低い腫瘍患者においては長期の予後が期待できるので,それにあわせててんかん治療も計画すべきである.また,転移性脳腫瘍においても20~35%にてんかんの発症が報告されている.
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