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てんかん臨床の窓から

てんかんと社会資源2 ソーシャルワーカーについて

漆畑眞人

Epilepsy Vol.5 No.2, 52-53, 2011

はじめに
 社会資源には,直接に利用する「制度」だけに限らず,制度利用ができるように援助する「サービス」もあります.「ソーシャルワーカー」による援助もそのひとつです.本誌においても,たびたび注目をしていただいているところです1).ただし,わが国においてはまだ普及の途上にあり2),なかなかわかりにくい現状があるように思われます.そこで今回は,てんかん患者やその家族が利用できるソーシャルワーカーについて,わが国の現状と課題をお知らせしたいと思います.

1 ソーシャルワーカー業務の目的

 ソーシャルワーカーは,①患者・家族の生活を安定させ,②それぞれが納得して満足のいく人生が送れるように支援します4-6).そのことを,生活面からの「ウェルビーイング(well-being)」の実現といいます1,3).
 医療によって,人は失いかけた生命や健康を取り留めますが,それは,人生を取り留めることです.どのような最先端の技術を誇る医療も,それがその後の患者・家族の有意義な人生に結び付くことで価値をもちます.
 世界保健機関では,憲章によって,「健康」とは,完全に,肉体的,精神的,および社会的ウェルビーイングの状態であり,単に疾病または病弱の存在しないことではない,と定義を明確にして,各国政府はこの「健康」を自国民に対して実現する責任を負うとしています7).「社会的ウェルビーイング」,つまり生活の安定とその人らしい生き方の実現は,「健康」の外部にあるものではなく,「健康」を構成するひとつの要素です.また,世界保健機関憲章自体は,単なる国際的コンセンサスであるだけにとどまらず,条約として日本国内での効力も有しています7,8).したがって,医療を担当するスタッフが「社会的ウェルビーイング」の実現に無関心となれば,日本国民の「健康」は完成しません.

2 ソーシャルワーカー業務の範囲

 厚生労働省は,「医療ソーシャルワーカー業務指針」を通知しています9).以下のように「業務の範囲」が示されています.項目だけ挙げると,以下のようになっています.
 ①療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助,②退院援助,③社会復帰援助,④受診・受療援助,⑤経済的問題の解決,調整援助,⑥地域活動.
 確かに,この整理の仕方は医療現場での実際のソーシャルワーク援助を行っている時に,ある程度指針となるものです.ただし,断片的羅列の感もあります.
 そこで,社会的ウェルビーイングを実現するという目的を明確にしたうえで「医療」の範囲のように,予防・治療・リハビリ・健康増進の4段階で整理すると,次のようになります6).
 まずは,生活崩壊の「予防」です.例えば,一家の主(あるじ)が交通事故後に外傷性てんかんになって家計を支えられなくなったり,介護が必要になった時に家庭崩壊の危機に直面することがあります.さらに,主だけでなく,てんかんの子どもを育ててこられた家族が高齢になられたり重い病気になられたりした時なども同様です.ここで,ソーシャルワーカーが入ることで,経済的困窮を未然に防ぎ,介護力を確保するなどの生活維持の道順を案内し,または関係者の心情に配慮しつつ正確な情報提供をすることなどで生活崩壊を食い止め,家族で前向きに生きていけるように支援ができる可能性があります.
 次に,ソーシャルワーカーが具体的な制度活用などの支援をすることによって,困窮した生活からの「救済」を図れることがあります.生活保護法や傷病手当金,障害年金などの所得保障制度や,自立支援・介護保険制度などを活用する支援があります.
 さらに,元のような生活を「取り戻す」支援をします.それは,単に介護福祉用具の整備や家屋改修のように家の中の生活条件だけにとどまらず,復学や復職,進学や再就職など社会復帰の支援も含まれます.
 そして,病気や障害を抱えたままでも,「よりよく生きる」ための支援を行います.ここでは,本人や家族それぞれの価値観が反映します.本人・家族の自己決定はソーシャルワークにとって本質的に重要な位置を占めます.このようなスタンスから,患者・家族の「人格」を尊重し,エンパワーメント(人が自分の人生を,自由かつ主体的に生きていくこと)を援助していきます.

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