<< 一覧に戻る

てんかん診療最前線

難治性てんかんに対する脳梁離断術とその手術適応;最近の動向

馬場啓至

Epilepsy Vol.5 No.2, 41-46, 2011

はじめに
 難治性てんかんに対する脳梁離断術が開始されてすでに70年が経過し,手術結果より徐々に脳梁のてんかんにおける機能が解明されてきた.ここでは,脳梁離断術の最近の知見を中心に,脳梁離断術の最近の動向について概説する.

脳梁離断術の変遷

 難治性てんかんに対する脳梁離断術は,1940年Van WagenenとHerren1)により初めて報告された.これは脳梁の腫瘍性病変や出血がてんかん発作を抑制するほか,発作が片側化し,発作が生じても意識は失われないといった臨床的な観察に基づいており,脳梁離断を行うことにより発作の二次性全般化が抑制されることを意図して行われた.それ以前の脳梁離断とてんかんに関する臨床報告は,1931年,1936年にDandyによりなされている2,3).脳梁経由での透明中隔嚢胞切除術例および脳梁膨大部離断により,松果体部腫瘍の切除例では合併していたてんかん発作が術後消失したことを報告3)しているが,脳梁離断と発作消失については注目されていない.また,脳梁膨大部離断例では特に術後合併症はみられなかったとしているが,後にこの例で脳梁離断症状が出現していたことが知られている4).
 Van Wagenenの例では追跡期間が短いほか,対象例の発作型が必ずしも明確ではない.また,脳梁離断範囲が一定しておらず,症例によっては前交連や脳弓の離断も追加されているが,それの根拠については明らかにされていない.しかしながら,ここでは脳梁離断により重大な合併症が生じないことが明らかにされたほか,術後の神経心理学的検査を行ったAkelaitisによれば,症例によっては発作の改善が得られたことが報告5)されている.このように,発作の二次性全般化防止に脳梁が重要であることが報告されたにもかかわらず,その後20年間,この術式は顧みられなかった.これはPenfield,Jasperによる発作全般化機序としての中心脳仮説が提唱されたこと6)のほか,Van Wagenen自身が手術結果について悲観的であったこと,1939年に始まった第二次世界大戦の影響によると思われる7).1960年代になりBogenらにより脳梁離断術が再度行われた8,9)が,このときには神経心理学的に脳梁機能が研究され,脳梁離断症候群が明らかにされた.この功績により1981年にSperryはノーベル賞を受賞している.しかしながら,術後生じる脳梁離断症状が必ずしも容認されたわけではなかった.その後,脳梁膨大部を温存することで脳梁離断症候群が回避できること10),実験的にも脳梁前半部離断により全離断術と同等の効果が得られることが報告11)され,1980年代には多くの脳梁離断術が行われるようになった.Wilsonら12-14)は手術術式の改良に取り組み,脳室を開放することなく脳梁離断を行うことにより,術後の水頭症が防止できること,脳梁および海馬交連の離断で十分な効果が得られること,二期的に全脳梁離断を行うことにより術後生じる長期間の無言状態が回避できることを報告し,これが現在の手術術式となっている.また,手術結果より発作の全般化機序としては脳梁が最も重要であり,脳幹は二次的であるという“telencephalic theory”を報告15)している.脳梁離断後には発作波数,発作波の持続時間は有意に減少し,一側半球に限局化する16).このほか,症例は少ないが術後に発作波が完全に消失する.このような結果,脳梁が発作波を反対側大脳半球に伝播させるという従来の考えでは説明が困難である.われわれの術中脳波の検討では,発作波は脳梁を介して伝播するのではないこと,皮質で記録できた発作波に先行して脳梁で記録した脳梁神経系の神経活動の亢進が認められることより,脳梁が発作を伝播するのではなく脳梁神経系の異常な活動が両側皮質での発作波形成,発作発現に重要であり,さらには皮質の興奮性の調節に関与していることを報告した17).
 脳梁離断術は根治術ではなく,あくまで緩和治療であるため,切除外科と比較して発作の完全消失率は8%程度と低く18),切除外科に比較して不満の残るところである.緩和手術としては1990年代になり迷走神経刺激が導入された.これは,開頭術による合併症がないため欧米では脳梁離断に代わり広く行われるようになった.本邦では,てんかん外科の遅れのため脳梁離断術はNakataniらにより初めて行われ19),われわれも1988年より開始した20).

手術適応

 脳梁離断術は発作の二次性全般化を防止する目的で始められた.しかしながら,その後種々の全般発作に対して有効であることが多く報告されてきた.このため,切除外科の対象とならない症例では脳梁離断術の可能性につき考慮する必要がある.現在まで多くの脳梁離断例の報告がなされているが,手術対象例や手術方法が異なるほか,手術評価方法も一定していないことから,結果の比較が現在でも必ずしも容易ではない.手術適応となる症候群としてWilliamson21)は,
 ① infantile hemiplegia
 ② forme-fruste infantile hemiplegia
 ③ Rasmussen症候群
 ④ Lennox-Gastaut症候群
 ⑤ 前頭葉てんかん
 ⑥ 切除不能の焦点性あるいは多焦点性
を挙げている.また,Luessenhopらは大脳半球離断例もよい適応と報告22)している.しかしながら,てんかん症候群よりも発作型で手術適応を決定することのほうが多い.発作のうち,最も危険な転倒発作に脳梁離断術が著効することは意見の一致をみている23).長期予後を多数例で検討した最近のTanriverdiらの報告24)においても,転倒に関連した全般性強直間代発作,全般発作,全般性強直発作に最も有効であり,ミオクロニー発作もよい適応と報告している.このほか,側頭葉外起源の複雑部分発作,単純部分発作も改善が得られている.
 1988年よりわれわれは症候性全般てんかんおよび前頭葉てんかんを中心に脳梁前半部離断88例,一期的脳梁全離断95例,二期的脳梁全離断31例を経験したが,発作型では脱力発作,強直発作,ミオクロニー発作による転倒発作,非定型欠神発作,全般性強直間代発作,二次性全般化発作および焦点側不明の前頭葉てんかんであり,最近ではWest症候群におけるてんかん性スパズムもよい手術適応と考えている25,26).症例の全身状態が良好で,発作消失あるいは軽減によりQOLの改善が得られる可能性のある症例では,積極的に手術適応を考慮すべきである(表1).

最近の脳梁離断術の動向

1.特発性全般てんかんに対する脳梁離断術

 特発性全般てんかんは薬剤に対する反応性は良好であり,一般的には外科治療の対象とはならない.しかしながら,少数であるが難治例が認められ,全般性強直間代発作にて外傷を繰り返す例が存在する27,28).症候性全般てんかんと特発性全般てんかんにおいては両側広範囲の両側同期性発作波があり,共通の発作発生機序があると思われ29),このような例に対して,最近では脳梁離断が行われている.Cukiertら30)は,11例の特発性全般てんかん成人例に対して脳梁膨大部を温存する脳梁離断術を行っているが,全般性強直間代発作を有した10例では全例75%以上発作が減少し,欠神発作を有した10例中3例で発作が消失,7例で90%以上減少,ミオクロニー発作を有した1例では発作消失したほか,全例で術後注意力の改善が得られたという結果を報告している.また,Jenssenら31)の成人例の脳梁前半部離断の結果では,9例中4例で全般性強直間代発作が80%以上減少,欠神発作は5例中2例で消失,ミオクロニー発作は3例中1例で消失,また,二期的脳梁全離断を行った1例ではミオクロニー発作,欠神発作が消失したが,全般性強直間代発作は残存した.このように,特発性の例においても難治性の危険な転倒発作を有する例では脳梁離断を考慮してよいと思われる.

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る