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ドライアイリサーチアワード

ヒト眼慢性移植片対宿主病における上皮間葉転換

Epithelial mesenchymal transition in human ocular chronic graft-versus-host disease

小川葉子

Frontiers in Dry Eye Vol.6 No.2, 64-69, 2011

緒 言
 上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition:EMT)は,1960~1980年代にElizabethらが眼上皮系などでマトリックスや細胞分化の研究をしてこの概念を提唱した。EMTの研究分野は線維化疾患だけでなく器官形成や癌の転移にも関与している。関連分野にはサイトカイン,関連転写因子,細胞外基質,基底膜,転移能,細胞極性,薬剤耐性など様々な分野がある1)2)。そのため,これらに関連する研究者が垣根を超えて研究を進めることが可能であり,今後のEMTの研究および疾患治療への展開が期待されている。

KEY WORDS
ドライアイ/上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition:EMT)/線維化/慢性移植片対宿主病/造血幹細胞移植

緒 言(続き)

 EMTの特徴は,上皮間の結合が消失し,上皮の方向性,極性を失い,上皮が間葉系細胞の性質を獲得して,運動能,浸潤能を獲得するとされる1)2)。
 EMTにおける上皮から間葉系細胞への極性の転換は急には進まず,徐々に進展していくとされる。上皮の細胞極性を制御するものは細胞間接着,細胞器質間接着,サイトカインシグナル伝達,インテグリンシグナル伝達などに制御されていると考えられる2)-4)。
 近年,腎臓,肺,肝臓などの線維化をきたす疾患で病態の進展にEMTの関与が指摘されている4)-7)。たとえば腎臓の間質に存在する線維芽細胞の40%は,炎症のストレスにより上皮からEMTを来たした細胞に由来すると言われている8)。EMTは放射線への曝露9),低酸素10),活性酸素種11),transforming growth factor-β(TGF-β),epidermal growth factor(EGF)などの炎症性サイトカン,増殖因子の存在1),基底膜の破壊による上皮細胞質の細胞外器質への曝露12)など様々な要因で誘発されると言われている。
 筆者らは,造血幹細胞移植後の合併症の1つである慢性移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)によるドライアイの病態解析をし,その病態の中心は高度な線維化を特徴とすることを報告してきた13)14)。
 造血幹細胞移植症例においては,移植前における放射線照射,移植後の炎症性細胞浸潤と大量のサイトカイン放出によるサイトカインストーム15),活性酸素種の存在16)などEMTの誘発因子が複数存在すると考えられる。これらの事実により慢性GVHDの線維化病態の一部に,EMTが関与する可能性を考え,超微形態を含めた免疫組織学的検討から眼GVHDの病態を検討しその病態を追究した。

対象と方法

 診断のために得られた慢性GVHD症例の結膜,涙腺生検検体について,解析の同意を得た結膜11例と涙腺9例を用い,正常結膜5例,シェーグレン症候群涙腺5例と比較検討した。
 EMTの指標として,上皮間接着因子であるE-カドヘリン,細胞骨格線維であるβ-カテニンとEMTの中心分子でE-カドヘリンの抑制転写因子であるSnail2),上皮基底細胞の指標として上皮基底細胞に特異的に発現する転写因子p6317),間葉系細胞の指標としてfibroblast specific protein 1 (FSP-1) に加えてコラーゲン特異的分子シャペロンであるHeat Shock Protein 47(HSP47),上皮基底膜の指標としてtype Ⅳ コラーゲン,type Ⅳ コラーゲナーゼであるMMP-9を用いて発現の有無を免疫組織化学的手法を用いDAB法および蛍光抗体法にて解析した。単位面積あたりの結膜および涙腺上皮基底膜断裂部位と,上皮の間質への浸潤細胞数をコントロールと比較し解析した。電子顕微鏡により,結膜,涙腺上皮の細胞骨格,上皮細胞内外のコラーゲン線維,上皮基底膜の超微形態を観察した。本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会承認のもと行った。

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