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総説

抗慢性炎症とミトコンドリア恒常性による健康長寿戦略

門松毅尾池雄一

アンチ・エイジング医学 Vol.17 No.4, 40-45, 2021

加齢に伴い糖・脂質代謝異常症,心血管疾患,がん,神経変性疾患など,さまざまな加齢関連疾患の発症リスクが増加する。本邦における高齢化率は今後も上昇すると予想され,加齢関連疾患の増加のみならず,これにかかわる医療費の増大が問題となっている。生理的変化として捉えられてきた加齢現象が,近年の研究により,分子レベル,細胞レベルで解明され,加齢および加齢関連疾患発症に抗うことの可能性がみえてきた。その1つの鍵が,臓器/組織を構成する各種細胞レベルの老化から個体の老化や加齢関連疾患の発症・進展を捉えた研究により明らかとなってきている。細胞老化は老化の代表的特徴であり,加齢もしくは生活習慣に起因するストレスにより引き起こされるゲノム不安定化やテロメアの短縮,ミトコンドリア機能不全などがその誘因となる1)。細胞老化は,増殖能を有する細胞を細胞周期から逸脱させることで細胞分裂を停止する,がん抑制機構として重要である。通常,生体内では,老化細胞は免疫細胞によって除去されるが,加齢に伴う免疫細胞の機能低下によって老化細胞が蓄積する。老化細胞は,細胞老化関連分泌形質(senescence-associated secretory phenotype;SASP)と呼ばれる種々の炎症性サイトカインなどを過剰に分泌する特徴を有する。加齢に伴い蓄積した老化細胞によるSASP因子の過剰分泌が,慢性炎症とこれに伴う不可逆的な組織のリモデリングを引き起こし,種々の加齢関連疾患の発症・進展につながると考えられ「inflammaging」として注目されている1)2)。このことは,加齢に伴い体内に蓄積した老化細胞の除去,もしくはSASP因子による慢性炎症の抑制が,加齢関連疾患に対する治療戦略として有用であることを示唆しており,近年,蓄積した老化細胞を選択的に除去する治療法(senolytic therapy)の研究が盛んに行われている。
「KEY WORDS」慢性炎症,SASP,ミトコンドリア,エネルギー代謝,加齢関連疾患

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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