特集 腎臓と老化
オートファジーと腎臓の老化
アンチ・エイジング医学 Vol.17 No.4, 32-36, 2021
老化は,個体の遺伝的背景,種,環境,生活歴に複雑に影響されながら進行するエントロピックな過程であると信じられてきたが,1990年以降,酵母,線虫,ショウジョウバエ,マウスにおいて複数の寿命関連遺伝子が同定されたことで状況が一変した。種を超えて共通した分子(Sir2(silent information regulator-2),インスリン・IGF-1(insulin-like growth factor 1)系,mTOR(mechanistic target of rapamycin)など)や代謝経路(カロリー制限など)が寿命にかかわっていることから,老化が他の生命現象と同様に限られたシグナル経路によって制御されていることが判明した1)。この事実は,老化研究を科学にするとともに,アンチエイジング(抗老化)が理論的に設計しうることを示唆する。腎臓も他の臓器と同様,老化する。形態的には40歳代前半をピークにはじまる皮質優位の萎縮,組織学的には輸入細動脈と輸出細動脈の短絡と一部それに起因する糸球体硬化,尿細管細胞の減少によるネフロン短縮,間質の線維化,小動脈の内膜・中膜肥厚と内腔の狭小化や閉塞が腎の加齢変化として報告されている2)。わが国では,60歳代では15%,70歳代では30%,80歳代では45%が推定GFR60mL/min/1.73m2以下であると推定されている3)。腎臓の老化機構を理解し,アンチエイジングを実現することは臨床的にも重要な課題である。
「自己の細胞質構成成分(タンパク,脂質,グリコーゲン,細胞内小器官など)をリソソームの酸性コンパートメント内で分解するシステム」と定義されるオートファジーは,酵母からヒトに至るまで真核生物が普遍的に備える大規模タンパク分解系である4)。老朽化した細胞質成分を無害化処理しながらリサイクルすることによって,細胞内の品質管理を担うことからアンチエイジング機構であると期待される。
本稿では,腎臓の老化におけるアンチエイジング機構としてのオートファジーについて,研究の現状と問題点を解説する。
「KEY WORDS」オートファジー,リソソーム,近位尿細管,ATG,Rubicon
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