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特集 機能性表示食品とアンチエイジング

治未病と食品の機能性

渡邊昌

アンチ・エイジング医学 Vol.16 No.4, 22-27, 2020

現代の日本では内科系疾患の治療に西洋医学による薬物療法の採用が主体になっている。しかし,肥満やメタボリック症候群から進展する糖尿病や高血圧症,加齢に伴う多疾患の重複,フレイル,認知症などは薬剤投与の効果が少なく,多剤併用の障害もいわれるようになった。6剤以上の使用する状態をポリファーマシーというが,向精神薬の場合,薬剤を止めることで認知症や徘徊が軽快することもある。また,在宅医療の増加は介護も加味した統合医療的対処が要求されている。このようななかにあって食事療法と運動療法は重要性が増している1)
西洋医学の栄養学に対し,日本には石塚左玄,二木謙三らによる食養生のグループがあり,玄米菜食で多くの疾患を治療してきた。西洋医学は「不足のものを補う」という原則があるが,東洋医学,特に西式甲田療法には「不要のものを捨てる」,という傾向がある。これはアーユルヴェーダにも共通している。日本の食養生では,特に玄米食の効果が科学的に実証されてきて,病気に至らない未病の状態での食事療法,病気になっても薬物療法などと併用する食事療法が可能になっている。これが医療の主流にならねば医療費増による医療システムの破綻は避けられない。さらに,西洋医学的栄養学には生きる目的や意義という哲学的なものがない。
私が昨年設立したメディカルライス協会の目的は,健康を保ち「未病」を治すことにある。未病という言葉は古代中国からあるが,病気が発症する前というくらいに漠然と考えられていることが多い。私は,未病の定義を検査値異常があっても症状のない状態と,症状があっても検査値異常のない状態に分けるとわかりやすいと思っている(図1)。前者は肥満や高血圧,高血糖,メタボリック症候群の人が典型的であり,後者はうつや不眠症,自律神経失調症などである。
西洋医学的には,未病は前臨床期と考え,必ず病気に進むと考えているので早期診断・早期治療を旗印に投薬を始めることが多い。血圧が高いと降圧剤,血糖値が高いと糖尿病の薬,脂肪が高いとスタチンやフィブラートという処方を出す。その基準は各専門学会のガイドラインに従うことが多いが,ガイドラインの異常値の基準がどこまでその人に当てはまるかということはあまり考慮されない。未病の場合は症状がないので検査値に頼りがちである。日本人間ドック学会のスーパーノーマルの人の測定値は,ガイドラインの正常値よりはるかに高い値を示すものがあり,特に高齢者で顕著であった2)
欧米の糖尿病治療のランダム化比較試験(RCT)などをみるとBMIが30kg/㎡以上はざらである。食事と運動で25くらいに落とせば血糖値の改善は薬より大きいと思われるが,そこまで踏み込んだRCTはほとんどない。肥満解消は薬物治療よりむずかしいし,生活習慣の改善などは医学ではないと考えている人が欧米でも多いのであろう。
「KEY WORDS」治末病,メディカルライス,サプリメント,玄米,機能性食品

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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