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アンチエイジング・ゲノム!

(6)トランスポゾンはアンチエイジングのターゲットになるか?

藤飯愼也岩本和也

アンチ・エイジング医学 Vol.16 No.3, 128-130, 2020

ヒトゲノムにおいて,タンパク質をコードする領域はわずか2%程度であり,機能遺伝子を含まない大部分のゲノム領域は,いわゆる「ジャンクDNA」として,重要視されてこなかった。しかし,近年,ジャンクDNAに多量に含まれる転移因子の重要性が明らかになりつつある1)
転移因子(トランスポゾン)は,ゲノム内で自身を増幅させる能力を持つ塩基配列であり,ヒトゲノム解読の結果,我々のゲノムの半分近くは転移因子に由来することが明らかになっている。転移因子はその転移活性により,ゲノム不安定性を引き起こすとともに,子孫に多様性を生み出し,ゲノム進化に重要な役割を果たしてきた。多くの転移因子は進化の過程で抑制されたり,変異の蓄積により転移活性を失っているが,一部は現在でも転移活性を保持している。転移因子は大きくDNA型トランスポゾンとレトロトランスポゾンに分類されるが,なかでも,非 long terminal repeat(LTR)型レトロトランスポゾンに分類されるlong interspersed element 1(LINE-1)は唯一,自身のコードする酵素活性により自律的な転移が可能で,ヒトゲノムの約17%を構成している。LINE-1は転写後,RNA中間体からの逆転写を伴う機構により新規ゲノム領域へ挿入し,自身を増幅する。ヒトゲノム中に数十万コピーが存在するが,そのうちの約100コピーが現在でも転移活性を保持しており,生殖系列の細胞で発現し,20〜200人に一人の頻度で現在も新規転移が生じている。
このように,転移因子はゲノム進化に重要な役割を果たしてきたが,個体レベルにおいてLINE-1の発現は多くの場合に有害であり,さまざまな機構により抑制されている。しかし近年,LINE-1が生殖系列以外の細胞でも発現することが明らかになってきており,精神疾患や老化に伴うさまざまな疾患に関与していることが示唆されている。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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