<< 一覧に戻る

特集 時間栄養学とアンチエイジング

機能性食品と時間栄養

大石勝隆

アンチ・エイジング医学 Vol.15 No.6, 50-54, 2019

超高齢社会を迎えたわが国においては,さまざまな疾患の発症を未病段階で予防し,健康寿命を延伸することは重要な課題となっている。機能性食品とは日本で初めて使用されるようになった用語であるが,2015年には新たな食品の機能性表示食品制度がスタートし,「医食同源(病気の治療も普段の食事も,ともに人間の生命を養い健康を維持するためのもので,その源は同じであるとする考え方)」(大辞林第三版,三省堂書店)という言葉のとおり,食品の機能性を利用した疾患予防や健康の維持増進についての関心が高まっている。
睡眠や深部体温,血圧,心拍数,ホルモンの分泌,薬物代謝,そして食物の消化・吸収・代謝に至るまで,多くの生理機能には日内リズムが存在し,体内時計によって制御されている。したがって,食品の一次機能(栄養機能)や三次機能(生体防御,体調リズムの調節,老化制御,疾患の予防・回復などの生体調節機能)は,摂取するタイミングによって異なる可能性が考えられる。一方,食品(成分)のなかには,体内時計や睡眠に作用するものが存在し,その機能性を利用することによって生体リズムや睡眠を調節することも可能である。このような,食と生体リズムの双方向的な作用に関する研究分野を時間栄養学と呼んでいる(図1)。
加齢に伴ってあらわれるさまざまな身体症状のなかでも,睡眠に関する問題は,多くの高齢者で認められ,その症状は多様で複雑であることが知られている。最近では,社会の24時間化による睡眠障害の低年齢化も指摘されており,成人の5人に1人が,入眠困難や早朝の中途覚醒,睡眠の質の悪さなどの睡眠障害の症状を有していることが報告されている。睡眠障害は,うつ病などの精神疾患や認知症,成長障害のみならず,肥満や糖尿病,高血圧,メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症とも密接に関係していることが明らかとなってきた。睡眠障害は,精神的,肉体的,そして経済的な社会問題であり,1980年代のアラスカ沖のタンカーエクソン・ヴァルディーズ座礁事故や,スペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故,チェルノブイリの原発事故などには,睡眠不足による人為的ミスが関与していたとされている。最近の米国のシンクタンクの調査結果では,日本の睡眠障害による経済損失が約15兆円との試算もされている1)
本稿では,新たな機能性表示食品制度によって睡眠改善効果が期待されている食品を概説するとともに,筆者らが開発したヒトの睡眠障害への外挿が可能なモデル動物などを用いた,食品の機能性研究について紹介する。
「KEY WORDS」睡眠,生活習慣病,体内時計,機能性表示制度,動物モデル

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る