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特集 メタボローム解析とアンチエイジング

循環器疾患とω3多価不飽和脂肪酸

遠藤仁

アンチ・エイジング医学 Vol.15 No.5, 25-29, 2019

世界的にも長寿県として名高い沖縄県は,10年程度で肥満・糖尿病患者数の飛躍的な増加を記録し,特に男性において平均寿命の著しい低下を認めている。「沖縄クライシス」と呼ばれるこの現象は,背景として高脂肪・高カロリーといった欧米スタイルの食生活が流入し,沖縄古来の質素な魚介中心の食文化が衰退したことがあげられている。このように食生活に基づく体内の脂質環境の変化は,直接,疾患と結びつき,生命予後にも影響を及ぼすため,アンチエイジングの観点から留意すべき重要課題と広く考えられている。
血中コレステロールや中性脂質のトリグリセリドは管理すべき栄養源として至近であるが,脂肪酸に関してはなかなかその量的・質的バランスに注意を払うことは少ない印象がある。一概に脂肪酸といっても,炭素鎖や二重結合の数によって構造的に分類され,さまざまな種類が存在する。二重結合をもたない飽和脂肪酸は優れたエネルギー基質であるとともに,過剰摂取が健康被害のもととなることはよく知られている。反対に,二重結合を複数有する脂肪酸,特にメチル末端から3番目に二重結合をもつω3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)は,EPAやDHAといったよく知られた生体保護的な脂肪酸を含む。脂肪酸はさらにさまざまな酵素によって,プロスタノイドに代表されるユニークな生理活性を固有する脂質に代謝される。このような脂肪酸代謝物は,摂取する食事内容や生活環境の変化,また組織個々の健康状態によって,局所的にダイナミックな変動を常に繰り返しており,生体にとって正にも負にも働き,恒常性の維持に寄与している。数百に及ぶ脂質各種を網羅的に一斉同時測定する技術をリピドミクス解析と呼び,質量分析器の開発や脂質抽出技術の発展により,現在では実験動物やヒト検体などの生体サンプルからも詳細な情報を得ることが可能になっている。特に,機能性脂質の探索ツールとして有用であり,脂質個々の量的変化を詳らかにすることで当該疾患における関連脂質を同定することができる。本稿では,心血管疾患とω3PUFAおよびその代謝物について最近の知見を紹介したいと思う。
「KEY WORDS」ω3多価不飽和脂肪酸,リピドミクス解析,REDUCE-IT 試験,18-HEPE,炎症収束性脂質メディエーター(SPM)

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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