同級生のS君は,人生を賭けて長寿の研究に取り組んできた老年医学の大家だ。その彼に講演を依頼すると,演題は決まって「老いてこそ夢を語れ」であった。長年にわたって長寿の科学的なデータを扱ってきたのだから,もう少し“科学的”なタイトルがついてもよさそうなものだと思ったこともあるが,なぜかいつも同じタイトルなのだ。
その理由を訊ねてみたことがある。彼はこう答えた。「いくら栄養のことを言っても,運動のことを言っても,目的がなく,希望がなく,夢がなければ健康長寿は実現しないからさ」道を極めた“風格”さえ感じさせる答えだった。
そんなS君とのやり取りを経て,クリニックを訪れる患者さんたちに,自信をもって語れるようになったことがある。