近年,食生活の欧米化に伴い,メタボリックシンドロームは肝臓においては脂肪肝,なかでも非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)としての表現型を呈し,アジアを含めわが国でも急速に増加している1)2)。特に,慢性肝炎に進展する非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)は肝硬変および肝細胞がんの原因となることから,これまでのB型,C型といったウイルス性肝炎に代わり注目されてきている。NASHは,肥満に伴う内臓脂肪の増加やインスリン抵抗性が関与していると推測され,糖尿病および心血管疾患との関連が注目されているが,いまだその病因は不明である。最近は,インスリン抵抗性,アディポサイトカイン,エンドトキシン,酸化ストレス,食事因子,遺伝因子などmultiple parallel hits仮説が提唱され,正常肝から脂肪肝へ,脂肪肝から脂肪性肝炎へ進展すると考えられるようになってきた3)。NAFLD/NASHの治療は減量が基本とされているが,生活習慣改善指導を行っても約6割の患者が減量目標を達成していない4)。また,これまでに脂質異常症治療薬,抗糖尿病薬をはじめとするさまざまな薬物療法が試みられているが,現在のところ確立した治療法がない。
Glucagon like peptide-1(GLP-1)は,食事摂取により小腸L細胞より分泌されるインクレチンである。GLP-1は膵β細胞に作用し,インスリン分泌を促進して血糖を低下させることで,糖尿病治療薬として利用されている。脂肪肝を有する糖尿病患者においてGLP-1アナログを長期間用いると,NAFLDにおける肝脂肪を軽減することが報告された5)。さらに,GLP-1アナログが肥満糖尿病モデルマウスの脂肪肝を抑制することが報告され6),GLP-1アナログのNASHまたはNAFLDに対する有効性が臨床および基礎的検討で報告されている。
一方,胆汁酸は肝でコレステロールより合成され,胆嚢に一時プールされた後,食事刺激によって腸管へ分泌される脂質吸収に重要な役割を果たしている分子である。胆汁酸は肝で合成・分泌された後,95%は再吸収され,残りは糞便中に排泄されるが,脂質吸収以外に生体内におけるエネルギー代謝制御の役割があり,注目されている。胆汁酸が肝や小腸で発現している核内受容体であるFXR(farnesoid X receptor)のリガンドとなることが1999年に報告されて以来7),胆汁酸の代謝メカニズムが明らかにされてきた。胆汁酸はFXRに結合し,胆汁酸合成に関わるCYP7A1を減少させ,NTCP(Na+-taurocholate cotransporting polypeptide)の発現を抑制し,BSEP(bile salt export pump)を増加させて胆汁酸を排泄させることで,肝内の胆汁酸を低下させる。また,胆汁酸はGタンパク質共役受容体(GPCR)TGR5と結合し,細胞内のcAMP濃度を上昇させて,褐色脂肪組織や筋肉細胞でエネルギー代謝を増加させ,肥満やインスリン抵抗性を改善させる可能性が報告されている。また最近,TGR5は小腸に発現し,胆汁酸が結合することでGLP-1分泌を促進することが報告されている。本稿では,脂肪肝,特にNAFLD/NASHおけるGLP-1の影響と胆汁酸の動態およびその関連について,これまでに報告されている知見を概説する。
「KEY WORDS」胆汁酸,GLP-1,脂肪肝,FXR,TGR5