特集 体内時計とアンチエイジングupdate
概日リズムと循環器疾患
アンチ・エイジング医学 Vol.14 No.4, 50-55, 2018
概日リズム(サーカディアンリズム)は約24時間周期で変動する生理現象であり,ほとんどの生物に存在している。
ヒトでは主となる時計機能は脳内(視交差上核)に存在するが,末梢組織にもその機能は存在し,中枢からの液性因子や神経因子によって分子時計は回っている。
この概日リズムは,時計遺伝子と呼ばれる一連の分子がその制御に関与する。特に重要な役割を担う遺伝子がClock,Bmal,Period,Cryの4つである。転写因子であるCLOCKとBMAL1が二量体を形成し,PeriodとCryの発現を正に調節するのに対して,これらの時計遺伝子から生成される蛋白がCLOCKとBMAL1の転写活性を負に調節することで,概日リズムのコアループを形成している。
概日リズムは環境に適応するために存在する生理機能であるが,概日リズムの存在により多くの疾患では発症に日内変動を認める。たとえば,虚血性心疾患や不整脈といった循環器疾患は早朝に発症することが多い。これはレニン・アンジオテンシン系や交感神経系活性が早朝に亢進すること,血小板凝集能の亢進と線溶系活性の低下は午前に認めるためと考えられる。虚血性心疾患の発症については,夜間シフト就労者に多いという報告を多数認める。発症の機序については血圧日内変動の変化,交感神経活性亢進や糖・脂質代謝異常などがあげられ,それらは概日リズムの撹乱によりもたらされると考えられている。また,概日リズムは年齢とともに変化する。加齢とともにほとんどの生理機能で概日リズムの振幅の低下,位相の前進および周期の短縮を認める1)。加齢に伴う概日リズムの障害が,老化による循環器疾患の有病率増加の原因の一つである可能性が考えられる。
本稿では,血管老化と時計遺伝子の関連性について,現在の知見も含めて考えてみたいと思う。
「KEY WORDS」加齢,時計遺伝子,細胞老化,血管老化
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。